プロポーズ(第2話)
モディリアーニは亡くなる数年前から、ジャンヌ・エビュテルヌという女性と同棲していた。
そのころが彼の心が一番安らいだ時期だったと言われている。
「微笑むジャンヌ・エビュテルヌ」はその同棲相手を描いた肖像画だ。
「モディのモナリザ」とも称され、モディリアーニの最高傑作のひとつとされている。
これまでフランス国外に持ち出されたことはなかった絵だ。
それが今回は特別に出展されることになったのだった。
あたしは絵に見入った。
若い女性が椅子に腰かけ、ちょっと小首をかしげて微笑んでいる。
とても幸せそう。
「あら、指輪をしてる」
「本当だ」
絵の中のジャンヌは左手の薬指に指輪をはめていた。
「あれ? 確か、モディリアーニって、結婚しなかったんだよね」
「そうよ。この女性と同棲していただけ……」
ああ、と、あたしには想像がついた。