暁天の星
【スミレ】
シリウス、ね。
ぴかぴか光る星を見て、パッと名前が浮かぶ。
あたしはきっと、死ぬまでこの星を見続けるだろうから。
コツコツとヒールが鳴る。
ああ、あたしもピンヒールを履くようになっちゃったよ。
いつも履いてたピンクのサンダルじゃないの。
おさげもリボンも、もう卒業したの。
昔まで隣にあったはずのものがなくて。
それに慣れたくなんかないのに、人間の順応性には敵わないよね。
もう慣れたよ。
ひとりの帰り道。
慣れたけど。
迎えに来てくれたらいいのに。
あたし、いつまでも期待して待ってる。
来ないって分かってるけど待ってる。
待つのは慣れてるから。
今度はあたしがご馳走作って待ってる。
あの頃みたいに、ディナーのメインは泥団子にしないし、特別にグリンピースはやめておくよ。
その代わり、ちゃんと残さず食べてよ?
だから、冷めないうちに食べてほしい。
インターホンを鳴らして、ただいまって言って。
あなたの帰る場所を、
あたしが作って待ってるから。