新・鉢植右から3番目
1、何と家族になりました!


 私はぼーっと、縁側に座って日を浴びていた。

 季節は春真っ盛り、4月を半分ほど過ぎたばかりの頃。

 ここは私達漆原家の一階、庭に面した縁側で、この家の中で私の一番のお気に入り場所となっている。目の前には庭師さんと相談しながら作った4坪ほどの庭が。家の面積を少なくしても作りたかった庭が、今や目の前にあって大切な緑たちがさわさわと風に揺れている。

 私はそれを満足の微笑みで見詰めていた。

 ちょいとおさらいをしておこう。

 まず、私の名前は漆原都という。30代前半の、新米母である。

 私の人生は、20代後半から劇的に変わったのだった。

 まず、20代の後半、私は都会でOLをしていた。そこそこ大きな会社の事務職についていて、仕事に関しては、上司にも同僚にもそれなりの信頼を得ていたと自分でもいえる。ただし、恋愛に関しては世の中の最低値を彷徨い、地面に這い蹲っていた女だった。

 会社の上司と不倫の数年、結果彼の奥さんにバレ、責任をとって会社を退職(というか、実質的解雇)。失ったものは、人間としての尊厳と社会的地位や周囲からの信頼、それから若くて希望に満ちた数年と肉体だった。

 つまり、会社を辞めて実家に戻った時、私はほぼ無一文の体も精神も壊した女だったのだ。

 一人娘を大事に育ててくれた両親を心底心配させた上にガッカリさせ、私はアルバイトをしながら実家に寄生していた。恋愛に関して夢も希望も失い、人様の夫に手を出した罰なんだろうと自分を呪い、ただただ毎日を何とか過ごしていた、30歳の初め。


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