新・鉢植右から3番目
娘の桜に起こったのは、やはり乳児特有の熱性痙攣てやつだったらしい。
熱が急激に上がって痙攣を起こす症状だ。
翌朝には両家に報告したので、すぐさま飛んできた両母親に桜はぎゅうぎゅうと抱きしめられ、うちの父からは救急の特大セット、漆原家の父からは熱性痙攣に関する報告書と名のついたファックスが大量に送られてきた。
それを読んで、子供によっては呼吸が止まってしまう子もいるらしいと読んで、冷や汗をダラダラとかいた私だ。まあ勿論軽いのもあって、大体は数分で痙攣もおさまるので救急車を呼ぶほどではないらしいのだけど。
重くもないが軽くもなかった熱性痙攣は、私の意識をハッキリと呼び覚ましたのだ。
しっかりしなきゃって。
もう、自分は母親なんだって。
『で、嫌じゃなかったのよね、漆原に頭を叩かれたときってさ』
奈緒の軽やかな声が電話の向こう側から聞こえてくる。いや、あれは叩かれたとは言えないでしょ、ぽんぽん、よ、ぽんぽん!あたたか~い慰めよ!そう突っ込みかけて、受話器を肩と顎で挟んだ状態で、私は静止した。
・・・・嫌じゃ、なかったわ、確かに。
10月の最初だった。
夏の間ロンドンへ仕事で飛んでいた奈緒が戻ったからお茶しよ~と電話をくれたので、私はこの夏におこったことを報告していたのだった。
一人でうだうだ悩んだこと。桜の熱性痙攣などを。
そして、病院でヤツに救われたことを話したところで、奈緒に言われたんだった。
でも、と私はしみじみと考えながら言葉を発する。
「あんな極限状態では、さすがにホルモンも凌駕するんじゃないの?ヤツが嫌、とか、そんなどうでもいいことは全部吹っ飛んでたんだろうしさあ~」