新・鉢植右から3番目
6、タッチ!タッチ!タッチ!
その夜、いつも通り無口で無表情の男、漆原大地はのっそりと帰ってきた。
「あ、お帰り~」
まだ夜の7時過ぎだった。だから私も元気だったし、最近は睡眠のリズムもついていた桜も起きていて上機嫌だった。
ヘラヘラと笑って、出来るようになって嬉しいズリ這いを駆使して父親に近寄ろうとしている。
あーんなに無口でしかも無表情なのに、娘は夫に人見知りをしないのだ。じっと見詰めるあの目が怖くないのだろうか?そう思って一緒に見てみたことがあったけど、娘はヤツの顔を見てニコニコと笑う(滝のような涎つき)。
・・・不思議だ。会話などないのにこの人は父ちゃん!って判ってるのかなあ?同じ匂いがするとか?もしかしてテレパシーか何か?ううん、やつらなら有り得るかも・・・。ちょっと知りたい不思議だわ~・・・。
私はホットプレートの上にお肉や野菜を広げながら、今晩もしゃがんで床の上で頭を上げている桜をじい~っと見下ろす夫を見ていた。
自分の子供にも超無言って、ある意味すげーな、この男。
あは~だ~と宇宙語を喋りながら、桜は口から美しい涎(親バカ眼鏡が私の両目にかかっているのは気付いている)を流しっぱなしにしながらヤツを見上げる。
反応もないのに嬉しいらしい。・・・何故なの、娘。
「涎凄いでしょう、毎日追いかけては床拭いてるわ~」
私がケラケラとそう笑うと、ヤツは無言で頷いた。目は桜から離さない。うーとかあーとか言いながら自分を見上げてくる小さな赤ん坊を、真顔で穴があくほど見詰めている。