新・鉢植右から3番目


 やっぱりまだよく判らないのだろうか。父親になったってこととかが。だから、親切な私は助け舟を出すことにした。

「そこでほら、抱き上げてさ、桜~!ただいま~!とか言ってみたら、たまには」

 想像しただけで噴出すわ。

 私がニヤニヤしながらそう言うと、ヤツはチラリと一瞬こちらを見た。その目には呆れた色があったのをしっかりと確認してしまったぞ。何いってんの、この人、そう思ってるに違いない。やっぱりしないのか、そんな普通のことは。うむむ。

 ヤツは抱きしめたり高い高いをする代わりに、床の上から娘をひょいと持ち上げてベビーベッドの中へとおろす。そして、抱っこを期待したのに一瞬で裏切られた娘が発する盛大なブーイングを背中に聞きながら、スタスタと鞄を置きにいってしまった。

 あははは、やっぱり娘でも私に対する扱いと一緒か!私は一人で苦笑して、それから料理の続きに戻る。今晩は鉄板焼きなのだ。久しぶりに一緒に食べるから、どんなご飯を作っても感想はとくにはないヤツを観察しまくった結果判明した好物(恐らく!)を、作ることにしたのだ。

 ヤツは、魚よりは肉が好きらしい。やっぱり力仕事だからだろうか。

 野菜がたっぷりと、それから奮発して黒毛和牛だ。私もガツガツ食べて、是非ともヤツに、奈緒の言うところの「タッチ」を実践してみたいのだ。懐かしのアニメソングが勝手に頭の中を流れ出すのをブンブンと頭を振ってて止める。やめよう、私はミナミちゃんみたいにラブリーキャラではない。


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