新・鉢植右から3番目
「キスでよかったじゃん。いきなり胸を鷲掴みする野郎だって世の中にはいるんだからさ」
「・・・そんなことされたら包丁で滅多刺しよ」
ガルルルルル!私は奈緒にむかって威嚇を開始する。彼女はニヤニヤと笑ったままで、お茶のお代わり貰うね~と立ち上がった。
・・・ああ、桜の耳伏せてて良かった。胸を鷲掴み・・・なんてこと言うのだこの女。
通りすがりに陽光がサンサンと差し込むリビングから、庭を見た奈緒があらと声を出した。そしてキッチンに向かいながらさら~っと言う。
「あれ、いいじゃない。玄関先から見えてちょっと可愛いかも。前は何置いてたんだった?」
「は?」
私は奈緒が何を言っているのかが判らなくて首を捻る。何がいい?可愛いって何のこと?
怪訝な顔をして桜を抱っこしたまま庭の方へ顔をむける私を振り返って、奈緒が言った。
「あれ?あんたが植えたんじゃないの?」
「何を?」
庭に新しい何かを植えた覚えなどない。私はあーとかうーとか言う桜を床のカーペットの上に転がして、立ち上がった。
新しく紅茶を淹れた奈緒が、カップを片手で持ちながらもう片方の手をすいっと伸ばす。
「あれ」
「・・・・あら」
声が漏れた口元に手をやって、私はぽかんと陽の光溢れる庭を見た。奈緒の白い指先がさす方向、元々は椿を植樹していた場所にあるのは──────────サルビアの団体さんだった。