新・鉢植右から3番目


 真夏だったので水やりはしていた。だけどそれもちゃんと庭に下りてホースで、とはしていないのだ。手前の方を急いでって感じ。それに基本的には放置でも大丈夫なものばかりだから・・・ちゃんと、全体を見てなかった。

 ・・・その後で、どうやら彼は、サルビアを団体さんで植樹していたらしい。

「・・・あらあら」

 今まで気がつかなかった自分をハリセンでぶっ叩きたい。私はじっと10本ほどがかたまって植えられている綺麗な赤い花に見惚れる。

 前に椿が赤い花を咲かせていた場所には、今ではぎっしりとサルビアの花。それは秋の今、一番いい色で輝いている。

 ゴージャスな光景。誰でもハッとするほどの鮮やかな場所。だけど私は今まで気がつかなかった。

 大切だった庭すら見えなくなっていたんだ。

 私は一体毎日何を見てきたのだろう。

 呆然としたままの私の後に奈緒が立つ。そして、肩をぽんぽんと叩いた。

「あの男、あれでもやっぱりあんたが好きなのよ。言ってたわよね?花言葉に詳しいとか?きっとサルビアも、何かあるんでしょ?」

 奈緒を振り返る。そうだ、奈緒には言ってなかったもんね。私はそう呟いた。

 サルビアは、私達の大切な花なの。一番最初に彼に惚れた、その原因になった花で─────────


 『尊敬・燃える心・知恵・家族愛・恋情─────────サルビアの花言葉だ。知恵、の所がぴったりだろ、合鍵置き場』



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