新・鉢植右から3番目


 玄関横の棚に置いた私の大事な鉢植達。その2段目、右から3番目の鉢植がサルビアだった。部屋の鍵をなくした私に合鍵を作ることを命じた夫の大地が、鍵を隠す場所に指定したのはサルビアの鉢の下だった。

 その時の、珍しく表情があったダレ男の顔は未だに覚えている。

 二人の帰る場所の鍵、それはここに置こうって決めたのだ。守り神はサルビアの赤い花。それは、不注意で私が鉢を割ってしまったあと、黄色いヒヤシンスの鉢に取って代わった。

 黄色のヒヤシンスの鉢植は、彼に、去年の誕生日プレゼントにあげたものだった。

『・・・失くしちゃダメなものは、ここに置くって決めたんでしょ』

 そう言って、彼はヒヤシンスを右から3番目の鉢植とした。私があげたプレゼント、気に入ってくれたんだって判って、照れたけれど嬉しかったのだ。

 だから、大事な家へ入る為の鍵の守り神は、今では黄色のヒヤシンスになっていた。そして置き場を変えていた赤いサルビア。小さな鉢に入っていたあの子が増えて、こんなにたくさんになって、庭に咲いているとは知らなかった。

 光に揺れる赤い波に目を細めて、私は笑う。

 結局また一人でバタバタしていただけだった。私が勝手に台風の中で転がっている間、彼はせっせと鉢植から庭にサルビアをうつしていたのか。しかも沢山にして。

 ・・・敵わないな、あの人には。

 奈緒も桜もにこにこと笑っている。いいじゃないの、とっても平和なのよね、この家は。そう言って。

 私は振り返って、笑顔で頷いた。




< 66 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop