新・鉢植右から3番目


 天高く、馬肥ゆる秋。

 世間ではどこでも運動会が行われていて、まだ日差しはそれなりに強いけれども風はひんやりとしている晴天だった。

 まさしく運動会日和。しかし、そんな行事は一切関係のない漆原家では、当家の大黒柱である世界最強のダレダレ男である漆原大地が、フローリングの床の上を這い蹲っていた。

「・・・足が痛い」

 ぶつぶつと文句を呟くダレ男を見下ろして、私は両手を腰にあてて突っ立ったままで叱咤激励する。

「ほらほらほら!文句ばっかり言わないで!頑張って~」

「・・・」

「もう、早く早く~!大体人には強いておいて、自分はやらないっておかしいでしょうが!」

「・・・強いてないぞ」

「強いたでしょうがよ!誰なのよ、人の鞄から勝手に鍵盗み出してたのは」

 おっもいため息を吐いて、背がムダに高いダレ男は床をずーりずーりと這いずり出す。私は同じようにズリ這いする仲間が出来たか!と誤解して狂喜し、父親に突進しようとする娘の桜を片手で止めた。

「さーちゃん。ダメ。お父さんは今宝探しをしてるんだから」

 桜は私の言葉が絶対わかっていないんだろうなあ、と思われる笑顔で私を見上げた。

 時は10月10日。今日は、何を隠そううちの夫である漆原大地の誕生日なのである。

 無表情で無口で面倒臭がり屋のダンナが何を喜ぶかで毎年毎年悩むけど、去年は黄色のヒヤシンスをあげて確かに喜んでもらえた。だけど、今年はどうする?私は庭にサルビアの団体さんを発見した時から必死で悩んだのだった。


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