新・鉢植右から3番目


 きっと、赤いサルビアは私の誕生日前後で植えられたはずだ。会話がなかったからヤツは言わなかっただけで、私の為にしてくれたのだろうと思う。だから、私も勿論彼に何かをあげたい。それを悩んで─────────その結果、夫の大地が今、床を這っているということになる。

 それはこういうこと。

 世界最強の面倒臭がり屋である夫の大地は、それなりに私のことを気に入ったのだなと自覚した時に、よし、ちゃんと夫婦になろうと思ったらしい。ただし、面と向かってプロポーズするには気力がないし、大体その時すでに私達は戸籍上は夫婦になってしまっていた。それで考えたやつは、私にまだ用意していなかった結婚指輪を贈ることにしたのだ。

 だけどここでちょっとした細工をした。そのままポンと私に指輪を渡すのではなくて、家の中に次の指令を書いたカードを隠して、宝探しゲームをさせたのだった。そのスタートは合鍵置き場のサルビアの鉢植。私をそこへ誘導するために、わざわざ私が持っていた家の鍵を盗み出したのだった。

 ヤツは今、それを非常に後悔しているらしい。あのおっもいため息を聞いたら丸判りだ。だって、それが故に今、私に宝探しゲームを強要されているのだから。

 今年の君への誕生日プレゼント、隠しました、どうぞ見つけてね、とニコニコと言った私。顔の真ん中に「うんざり」と文字を浮かび上がらせて、ダレ男は寝たフリをしやがったのだ。だから私はもう遠慮なくゆさゆさと揺さぶった。「面倒臭い・・・」「面倒くさくない!」「メンドー・・・」「面倒くさくない!」と言い合いをしながら。暫くはされるがままにガクガク揺さぶられていたけれど、その内頭痛がしだしたらしくヤツが観念した。だから私は特上の笑顔でヤツに最初の指示書を渡したのだ。


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