新・鉢植右から3番目
で、まあそこで既にヤツは面倒臭くなって、私を抱きながら聞き出す作戦にしたみたいなので終わっちゃったわけだけど、その風船には紙がはっつけてあって、それにはヤツが最初に利用した場所、玄関横の私の鉢植置き場に誘導されるはずだったのだ。
大事なもの置き場、二段目右から3番目の鉢植の、黄色いヒヤシンスの下にもカード。それにはヤツが結婚指輪を隠していた寝室の箪笥、その上の引き出しを指定していた。
そこを開けると、すぐに目に飛び込んでくる場所に、プレゼントを置いたのだ。
私が今年、ヤツに準備したのは──────────
「それだったら使うのも面倒臭くないでしょ?」
笑いを含んだ私の声に、ヤツはただ頷く。手に持つのは本の栞。私が作った、押し花の栞だった。
ほとんど毎日本を読むこの男は、途中で読書をやめる時に栞を利用していなかった。本のカバーをそのまま挟んで使っていて、それに気がついた私が栞は?と聞いたことがあったのだ。
あれはまだ二人で暮らしていて、妊娠もしていなかった頃のこと。
その時にヤツは、いつものだら~っとした答え方で言っていた。『そんなの持ってない』って。でもカバーで十分用は足せてるから、いいのだって。
それを覚えていた。そして私は、彼が植えたらしいサルビアを利用したのだ。あの綺麗な真っ赤の花びらを手折って、栞にする為に押し花を作ったのだった。
気付いてるよ、のメッセージの代わりに。ありがとう、たくさんのサルビアを植えてくれて。そう言いたくて。
彼には、それが判ったらしい。