プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

お父さんが私の言い分をあっさりと覆す。

なるほどと思ってしまった。
確かに、会社の人たちに私の顔は割れていない。
でもだからといって、なんの経験もない私が新入社員としてじゃなく中途で入社し、その上半年足らずで退職なんて、ちょっと都合が良すぎやしないか。


「祐希くんのところに、ちょうど産休に入る女性スタッフがいなかったかな?」


社長のくせに、そんな細かいところまで知っているとは。
お父さんは祐希に質問を投げかけた。

祐希は大学を卒業後、お父さんの会社に入社していたのだ。
コネ入社は嫌だと、ほかの社員同様に入社試験を受けて。
清美おばさんからこっそり聞いたところによると、筆記試験は受験者中トップだったらしい。
そういう優秀なところも、清美おばさんのお気に入り度合をアップさせている。


「いますが……」


祐希の声のトーンが恐ろしいほど下がる。
私を押し付けられるんじゃないかと、彼が身構えたように感じた。


「日菜子がそこに入るというのはどうかな」

「そうね、それはいい考えだわ。祐希さんのそばに置いておけば、変な虫もつかないだろうし」

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