プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

そういうさり気ない優しさは見たくなかった。
落ち着けば、心の変化を無視して結婚できるのに。


「祐希様というお方は、奥底に秘めた優しさをお持ちの方でございますね。思えば、牧瀬家で暮らすようになったときからそうでした」


そうだったのだ。
彼は毒舌を吐きながらも、いつだって控えめな優しさを持っていたのだ。

それはもしかしたら、早くに親を亡くしたことも関係しているのかもしれない。

私は祐希のその優しさを忘れていた。
それを思い出してしまったから、こんなに心が不安定なのだ。
それに触れるたびに心がくすぐられていた。

ただ、私には清美おばさんの言いつけがある。
祐希を好きになってはいけないと、幼い頃から無意識にブレーキをかけていたことを思い出してしまった。
封印していた気持ちがあったことを。


「ねぇ、雪さん、祐希のご両親って事故で亡くなったって言ってたよね?」

「はい、そうでございます。飛行機の事故だったそうです」


ある日突然、お父さんもお母さんもいっぺんに亡くす。
その苦しみは私にはとうてい想像もつかない。

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