プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
美月の旦那様は社内にいたとは。
理由もなく、てっきり社外の人だと思っていた。
「日菜子さんも知っている人ですよ」
口元に手を当てて、美月がヒソヒソと言う。
続けざまに言われて、私は大きく目を見張った。
入社して日の浅い私でも知っている人なんて限られている。
ということは、同じ部署の可能性が高い。
ところが、覚えたての名前をあれこれ挙げてみたものの、そのどれにも美月は首を横に振るばかり。
すべて出しただろうと思えたところで、美月は大きな眼鏡の向こうでふふふと意味深に笑った。
「まだいます。日菜子さんも知ってる人が」
「……え? 誰だろう」
眉間に皺を寄せるほど悩んで浮かんだのは、ある人物だった。
でも、それはさすがにないだろうと美月の顔を窺いながら首を捻る。
「初日に会いました」
そのヒントは、最後の候補者にも当てはまった。
だけどやっぱりあり得ない。
普段はいくら眼鏡をかけた地味な女性だとしても、美月との釣り合いが取れなさすぎる。