プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
お父さんの提案に清美おばさんも大賛成のようだ。
祐希がそばにいようがいまいが、私に変な虫がつくとは思えないけれど。
まったく誰も知らないところにひとりで放り込まれるよりは、私も助かる。
喫茶店や書店にひとりで突入することを考えていたくせに、甘い道を示されると、ついそちらになびいてしまう。
これぞ甘やかされて育った子供だ。
ところが、ここにひとり、それに納得しきれていない人がいた。
言わずもがな、祐希だ。
お父さんと清美おばさん、それから私という牧瀬家の視線を一身に受けて、祐希は目を泳がせている。
お父さんと私からは、“お願い光線”、おばさんに至っては『まさか断らないわよね?』という“強要光線”が発せられていた。
「……それは社命ですか?」
「うーむ。祐希くんには迷惑をかけ通しですまないとは思うが、日菜子はこれでも大事なひとり娘でね」
「私たちの目の届かないところで働いて、悪い男に騙されたりしたら大変だから、ぜひ祐希さんにお願いしたいわ」
お父さんと清美おばさんからたたみかけられた祐希は、背筋をピンと伸ばしたままだ。
答えはYES以外にないと悟ったか、祐希の口から小さく溜息が漏れた。
「わかりました」
私はともかく、ふたりにお願いされれば断れるはずがない。
わがままな親子に付き合わされる祐希は、なんて不憫なんだろう。
振り回している張本人のくせに、そんなことを思った。