プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
「それもそうね。日菜ちゃんも万全な状態で会ったほうがいいものね」
早く早くと急かしていたはずが、祐希によっていともたやすく覆された。
ありがとうという感謝の気持ちと、さすがだという尊敬の眼差しを彼に向けた。
でもそれによって、私が鴨川さんとやらに会う日のタイムリミットが決められたこともまた、意味していた。
肩に重い石を置かれたように、ズーンと沈んだ気分のまま部屋へと戻る。
今にも床にめり込むんじゃないかとすら思った。
階段を上ったところで雪さんにかけられた声にも、生返事でしか対応できなかった。
そのままソファに身を投げだす。
私、本当にこのまま結婚するのかな。
そればかりが頭の中をぐるぐると回り続ける。
クッションを抱えて目をギュッと閉じた。
真っ暗闇に祐希の顔がぼんやりと浮かぶ。
結婚するのは仕方がない。
幼いころからそう決められてきたのだから。
ただ、このまま見知らぬ人のものになるのはいやだった。
なんとも思っていない人とキスをできるものなのか。
好きでもない人に抱かれても平気なものなのか。
鴨川さんの顔を思い浮かべながら、そのシチュエーションを想像してみたが、一向にキュンとしない。