プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

「……今だけでいいから」


せめてこのときだけ。
祐希に引かれた線を飛び越えたい。

祐希は軽く頷いた。


「おいで」


祐希の腕が回されて腰が引き寄せられる。
そのまま抱きすくめられて、息が止まるかと思った。


「……日菜子」


単なる呼び捨てが、こんなにも心を揺さぶるものだと初めて知った。
胸の震えが止まらない。
透明な壁が一気に取っ払われたような感じだった。

祐希のかすれた声が耳に残る。


「祐希」


もう一度呼んでほしくて、私も彼の名を呼んだ。

祐希が私をそっと引きはがし、見つめ合う。
彼の眼差しが熱かった。
そんな祐希を見るのは初めてだった。

彼が私の髪を撫でながら、耳へとかける。


「目を閉じて、日菜子」

< 127 / 260 >

この作品をシェア

pagetop