プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

そう思って当然だ。
悠々自適に暮らして、優雅な生活をしていると。
私の場合は、優雅にほど遠い怠惰な生活だったけれど。


「結婚する前に一度働いてみたかったの」

「そういえば、結婚がどうとか話してたことがありましたよね」


美月の言うことに頷く。


「世間知らずを少し払拭したくて」

「……それじゃ、本当に密偵じゃないんですね?」


力強く「うん」と返す。
すると美月は、胸に手を当てて「よかったぁ」と大きく息を吐き出した。


「私、結構日菜子さんと仲良くさせてもらっていたから、なにか失礼なこととかあって、それを報告されていたらどうしようかと思っちゃいました」


なるほど。
それを恐れていたから、よそよそしかったのだ。

眼鏡の奥の目は笑っている。
これでいつもの美月だ。


「でも、みんなもそう思ってるかも。なにかを社長に告げ口されたら適わないって」

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