プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
「雪さん、やめてよ……」
私までもっと辛くなってくる。
しめやかな気分になる日ではないのに。
本当なら、もっと晴れ晴れとした喜ばしい気分になれるはずだった。
祐希への想いに気づくまでは。
「それでお仕事はどうなさるおつもりですか?」
「正式に婚約するまでは続けようと思ってはいるけど……」
私に対する社内の空気が一変した今は、それも難しい選択かもしれない。
あの一件から昨日までの二日間は、なんともいえない居心地の悪さだった。
私に普通に接してくれたのは、祐希と美月くらい。
それまでしんと静まり返るような部署ではなく、打ち合わせや自然発生的な私語で比較的ざわつくことが多かった。
それが、なにかがあれば社長に報告されるんじゃないかと、ピリピリムードが漂っている。
私は腫れ物扱い。
その気持ちはわからなくもない。
会社のトップの身内がいるのといないのとでは、働きやすさが違う。
無駄に気を使うことが多いだろうから。
同じくインサークルトークで話のネタにされた祐希に対しては、社長の娘に手を出して大丈夫なのかというお節介な心配と、社長の座を狙うつもりなんじゃないかという余計な勘繰りが向けられた。