プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
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傘を差してくれた運転手がドアを開け、私を後部座席へといざなう。
慣れない着物で足がステップまで届かず、おばさんに手を貸してもらってなんとか乗り込んだ。
私をひと目みたお父さんも、清美さん同様、感嘆の声を上げた。
ふたりとも大袈裟だ。
着物姿が珍しいだけ。
さっきより強くなった冷たい雨は、休むことなく降り続けている。
このまま嵐にでもなって、待ち合わせの場所に到着しなければいいのに。
恨めしい気持ちで窓から空を見上げた。
約束の場所は、車を三十分ほど走らせた市街地にある。
落ち着いたライトブラウンの建物がそびえる三ツ星ホテル。
お父さんや清美さん、それから祐希も含めた四人で何度か食事をしに来たこともある。
エントランスに車を横づけにすると、ドアマンが機敏に応対してくれた。
ピカピカに磨かれたドアの向こうからは、きらびやかな光が漏れている。
雲に覆いつくされた外のほうが、昼間だというのに暗かった。
「日菜ちゃん、こっちよ」
清美おばさんが先導し、そのあとにお父さんと私がついていく。
履き慣れない草履で、すでに親指と人差し指の間が痛い。
こんな状態で最後まで持つのか不安だ。