プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

フロントの前を抜けていくと、スタッフから律儀に頭が下げられた。
おしとやかぶって、こちらも頭を軽く下げる。
着物のおかげで少しは上質な客に見えるだろうか。
そんなくだらないことを考えて気を紛らわせた。

清美おばさんが、一階の一角にある入口に吸い込まれていく。
格式のある日本料理のお店だ。
さすがに初顔合わせだけあって、堅苦しい場所を指定してくるものだ。

このホテルには何度か足を運んだことがあるが、そこは初めてだった。
眩しいくらいに明るいホテルのエントランス付近とは違い、照明が抑えられていて暖色の内装も目に優しい。
これぞ和服美人という三十代くらいの女性に案内されたのは、一番奥にある個室だった。

さすがに将来の伴侶との初対面。
緊張に胸を張りつめらせて中へ入ると、まだ到着していないようで小さく息を吐く。

それに気づいた清美おばさんは、「気楽にね」と笑った。
そんな気分で臨めるものじゃないことはわかっているだろうに。
畳に正座は正直キツイと思っていたが、掘りごたつを見てホッとする。
帯の締めつけは仕方ないにしろ、これで足の痺れの心配はなくなった。

お父さん、清美おばさん、私の並びで座り、先に出されたお茶で喉を潤す。
誰もなにもしゃべらなかった。
気楽にと言っていたはずの清美おばさんが一番緊張しているようだ。

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