プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

そして、約束の午後一時を少し過ぎたときだった。
「こちらでございます」というさっきの女性の声がした直後、扉が静かに開けられた。

今度こそ、背筋に力が入る。
顔を向けてジロジロ相手方を見るより、おとなしめに俯くくらいがちょうどいいだろうと思い、前を向いたまま先方が座るのを待った。


「どうもどうも、大変お待たせしました」


お父様らしき人が笑いながら頭をかく。


「いや、この雨のせいか道が混んでいましてね。しょっぱなから失礼いたしました」


大きな声が個室内に響いた。
下着を取り扱う会社の創業者ということで、繊細な人という印象を勝手に抱いていたがそうでもなさそうだ。
見た目も恰幅があり、どちらかというと豪傑なタイプに感じる。


「本日は誠にありがとうございます」


今度はうちのお父さんが頭を下げる。


「大変結構なお話をいただきまして、本当に嬉しい限りでございます」


清美おばさんがあとに続いた。
先方のお母様は優しそうに微笑むだけで言葉は発せず、その隣、私の前に座るもうひとりの主役は、じっと私を見据えていた。

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