プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
「鴨川真人です」
――そうだそうだ。鴨川さんだ。
渡辺でも橋本でもない。
結婚したら“鴨川日菜子”で、カモのヒナになってしまうじゃないかと自嘲したっけ。
「ほら、日菜ちゃん」
隣から清美おばさんが私を突く。
「あ、はい。牧瀬日菜子です」
頭を下げて戻すと、真人さんと目が合った。
すぐに優しい笑みを返してくれて、ちょっとだけ気が楽になった。
写真で見るよりも誠実そうだ。
第一印象は悪くない。
お互いの挨拶が済むと、両家の親が息子と娘の紹介を始める。
それは、幼少期から今に至るまでの簡単な経歴とでもいおうか。
お相手の真人さんは、祐希と同じ最高学府の出身だった。
なるほど。
頭脳明晰で次期社長というわけか。
いわゆる有望株だ。
それに引き換え、私の経歴のお粗末さといったら……。
清美おばさんは緊張も解れたのか、調子に乗って私の武勇伝みたいなことまで暴露してしまった。
おかげで私の顔は真っ赤だ。