プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
でも、これで相手が断りを入れてくるのなら、それはそれで喜ばしいと、まだ退路を探している。
往生際が悪いとはこのことだ。
空気も温まったところで、懐石料理が運ばれ始めた。
「“ほうぼうの大徳寺納豆忍ばせ”でございます」
「“笹ガレイの幽庵焼き”でございます」
次々と出される、品のある美しい料理の数々。
それらは目で見るだけでも楽しかった。
これを食べられただけでも、今日はよしとしよう。
おしながきで中盤まで進んだときだった。
このお店には不釣合いな大きな足音が近づいてくることに気づいた。
ここのスタッフは誰も、足音はほとんどさせない。
衣ずれの音がわずかに聞こえる程度だ。
ほかのお客だろうか。
そんなことを考えながら箸を運んでいると、この個室の扉が少し乱暴に開かれた。
何事かとビックリして、全員がそちらを見る。
そして、そこに立つ人物に自分の目を疑った。
祐希だったのだ。
「祐希さん!? いったいどうしたの!?」
「なんの騒ぎなんだい、祐希くん」