プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
「……機能性が優れていますから」
でも、そのタオルでなにをしようというのか。
いったんタオルを見てもう一度祐希に視線を移すと、彼はタオルを上下に揺すった。
ためらいながらそれを掴む。
すると、すごい勢いで上に引き上げられた。
そうされれば足を踏ん張らないわけにもいかない。
鉛のように重い足腰で立ち上がった。
「さ、行きますよ」
祐希はタオルのもう片方の端を持ち、クルリと方向転換。
そのまま走り出した。
「えっ……ちょ、ちょっと待ってよ」
タオルをグッと握り直す。
「待っていたら会社に遅刻しますから」
有無を言わさず走らせる気らしい。
タオルで半ば引きずられるようにして足を出す。
はたから見たら、老犬が飼い主に先導されているようだろう。
情けないことこの上ない。
朝早くとはいえ、車も行き交う幹線道路。
無様な格好はできるだけ見られたくない。
電池の切れた身体に鞭打ち、なんとか走り始めた。
「そうそう、その調子ですよ」
こき下ろすのも上手なら、おだてるのも上手らしい。
祐希は時折うしろを振り返りながら私にエールを送り続けた。
普段の祐希なら、私を置き去りにするところだろう。
これから仕事上のパートナーになるからか、少しは優しく扱おうと考えを改めたのかもしれない。
そしてその日から、彼とふたりの朝のジョギングが始まったのだった。