プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
お母さんが亡くなったあとは、清美おばさんが母親代わりとして私を育ててくれた。
ただ、おばさんは母親代行業だけじゃなく、お父さんが経営するアパレルメーカー【セブンスゲート】の専務も勤めているのでかなり忙しい。
それも、社長であるお父さんよりも権限があるように見えるのだから。
何事にもはっきりと自分の考えを伝え、押しの強い清美おばさんとは対照的に、どちらかというと穏やかなお父さんはいつも圧倒されっぱなし。
『清美ねえさんには適わない』と日頃からこぼしているお父さんから察するに、会社でも、社長の意見よりも専務の意見のほうが通ることもしばしばあるのだろう。
ゾウのように大きな身体を持ってしても、ゴリラのようにいかつい顔を持ってしても、お父さんのその中身はウサギのように穏やかだ。
これまで、見た目とのギャップをお父さん以上に感じた人はいない。
現に、初対面した何人もの人が、口を開いてからのお父さんの中身との格差に驚く姿を目の当たりにしてきた。
それを見るたびに心の中で『やっぱりそうだよね』とその反応に頷くのが常だった。
目の前に置かれた箸をいったん手に取ったあと、私はもう一度それを戻した。
手を膝の上に重ねて置き、深くゆっくり呼吸を繰り返す。
「お父さん、話したいことがあるの」
上目使いでお伺いを立てた。