プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

◇◇◇

江橋さんの案内でやってきた社員食堂は、二十階建てビルの十九階に位置していた。
最上階は役員室が連なっているらしい。
十二時ちょうどのそこは、トレーを持った社員の長い列ができていた。


「安いし味も抜群だから、ほとんどの人が外へ行かずにここで食べているんです」


それでこの広さなのだ。
十九階すべてが社員食堂。
平方メートルだとか坪だとか、そういった単位での説明は私には無理だが、とにかく広いのだ。
一番端っこのテーブルに座る人の顔の判別もつかない。
スーツを着ているか着ていないかで、男女の区別がかろうじてできるくらいだ。

円形の四人掛けテーブルや長方形の六人掛けテーブル、窓を向いたカウンター席など多種多様な席が設けられている。

とりあえず江橋さんに倣って、私も日替わり定食を頼んだ。
今日は生姜焼きらしい。

空いている丸テーブルを見つけ、江橋さんと向かい合って座った。


「牧瀬さんって、社長と親戚だったりするんですか?」

「あ、いえ、たまたま名字が同じなだけです」


事前に祐希と打ち合わせしていた回答をする。

< 44 / 260 >

この作品をシェア

pagetop