プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
お父さんは私に優しい眼差しを向け、咀嚼を終えてから「改まってどうした?」と尋ねた。
隣で食べている清美おばさんの視線も、私へと注がれるのを感じた。
極力そちらは見ないように努める。
彼女の涼やかな目を見てしまったら、思っていることが言えなくなるからだ。
お父さんだけでなく、私もまた、清美おばさんの強力な押しには弱い。
「私、働きたいの」
まだ就職先は決まっていない。
喫茶店のウエイトレスでも書店の店員でも、とにかく働きに出てみたいのだ。
何店か目星をつけているお店を思い描いていると、お父さんの目が大きく見開かれた。
「働く? 日菜子が? いや――」
「やだ、日菜ちゃんったらなにを言い出すの」
やはりと言うべきか、お父さんの言葉を遮って清美おばさんが声を上げる。
「日菜ちゃんにはセブンスゲ―トを継ぐ、然るべき人と結婚をするという大仕事があるんですから。働くなんてもってのほかよ」
“然るべき人”との結婚は、私が中学生のころから清美おばさんが私に繰り返し言い聞かせてきたことだ。
それが、牧瀬家のひとり娘である私の役目だと。