プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

「この頃は、あちこちから縁談も持ち込まれてるの。私が責任を持って、日菜ちゃんを最良の相手と引き合わせるから。働いている場合じゃないのよ」

「でも、結婚はまだ先でも……」

「呑気なことを言っていたら、セブンスゲートが潰れちゃうわ。社長として婿を育てるのに、どれだけの時間がかかると思っているの。だから会社の未来は、日菜ちゃんの双肩にかかっているのよ」


朝食そっちのけで清美おばさんが息を巻く。
今にもその長い舌がにゅるっと飛び出して、私のことを食べてしまいそうな勢いだ。
もちろん、食べるのは私自身ではなく、私の意見なのだけど。


「ねえさん、まぁ落ち着いてくださいよ」


待ちに待ったお父さんによる引き留めも虚しく、清美おばさんは「あのね、日菜ちゃん」と話の先を切り出した。
お父さんの言葉はまったく入らない耳の構造なのかもしれない。
私にもそんな機能があれば、清美おばさんの強引な話をシャットアウトできるだろうに。

いったんスイッチが入ってしまうと、いつもこうなのだ。
とにかく自分の意見を受け入れさせるまでは問答無用。
切々と“セブンスゲートの未来”について話し始めてしまう。
経営者であるお父さんよりも熱心なんじゃないかと思うほどに。

すると不意に、清美おばさんと私の視線の前を白いワイシャツの腕が横切った。

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