プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
“祐希に男を感じたから”だと正直に言えるわけがない。
あれは確か、私が小学六年生のとき。
祐希がうちにきて間もない頃だった。
男の子たちにからかわれて、なぜか木をよじ登った私は、見事なまでに落下したのだ。
どんな風にからかわれたのか記憶は定かではないが、落ちる寸前の恐怖は今でもよく覚えている。
眠りにつく直前に、どこかから落ちるような感覚で足が“カックン”となるときは、あのときの怖い思いが蘇る。
木から落ちて火が点いたように泣く私を遠目で眺める男の子たち。
そこに颯爽と登場したのが、祐希というわけだ。
「お前ら、なにしてる!」なんて言って。
男の子たちにしてみたら、木から勝手に落ちただけだというところだろうが、祐希はまさしくヒーローだった。
幸い、どこにも怪我は負わずに済んだのだけど。
子供の身体の柔軟さといったらない。
祐希が私に優しくしてくれたこともあったのだと、たった今思い出した。
厳しく接することが多いせいで、全部上書きされてしまったのか。
「あのときの祐希、カッコよかったな」
私の頭の中で勝手に再生された思い出話の延長で、つい口走る。
すると、今回もまた祐希の耳が心なしか赤くなったことに気づいた。
いったいどんな顔をしてるんだろうと気になって、おんぶされた状態のままこれでもかというほど首を伸ばした。
祐希の顔を見てやろうという魂胆だ。
がしかし、当然のことながら私が体勢を崩して、祐希もろとも転びそうになった。
「僕のことを巻き込むのはやめてください」
転ぶのは私だけで充分だと言いたいらしい。
華麗に身を翻した祐希は、何事もなかったかのように再び歩き出した。