プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
涼香さんがほかのスタッフに呼ばれて外したときに祐希から聞いたところによると、彼女は祐希の同期入社の仲間らしい。
どうりで仲が良く見えるわけだ。
「祐希、ちょっといい?」
涼香さんに呼ばれて、祐希は手にしていたセーターを私に預け、彼女の元へと急いだ。
涼香さんも、祐希を呼び捨てだった。
なんとなくチクリと胸が痛む。
ふたりは入口に入ってすぐのところに設置したディスプレイについて話を始めたようだった。
肩越しにそれを眺める。
真面目にやり取りをしながらも、ふたりはときおり顔を綻ばせて笑い合う。
涼香さんのさり気ないボディタッチを避けるわけでもなく、祐希はむしろそれを喜んで受け入れているように見えた。
私には見せたことのない顔だ。
ふたりは恋人同士なのかもしれない。
ふと、そう思った。
そうじゃないとしても、お互いに好意を持っている。
そんな姿だった。
息が苦しいのはなんでだろう。
胸が押しつぶされそうな気がするのはどうしてだろう。
思いもしない反応だった。
祐希と女の人が親しげに話す場面を今まで見たことがなかったから?
祐希に女性の影を感じたのが初めてだから?
それとも――。
思いつく限りの理由を並べて、最後の最後に浮かんだひとつに心臓が激しく波打った。
――やだ、なんで今さら。
もう十三年も一緒に暮らしてきたのに。
そんなわけがない。
ちょっとした心の誤作動に決まっている。
否定すればするほど、それに反発するように胸が大きく高鳴る。
私にそんな異変が起こっているとは露ほども知らず、祐希と涼香さんは弾むような様子で仕事の話を続けていた。