プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
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新しい匂いに満ちた店を出て腕時計を見ると、夜の八時を過ぎていた。
初めての長時間残業だ。
「日菜子さんを遅くまで付き合わせてしまいましたね」
そういうセリフを言われると、私はまだ祐希の中で仕事のパートナーとしてのランクが低いと思わざるを得ない。
「仕事だから大丈夫」
そんなことは気にしてほしくないと、“仕事”を強調した。
「お腹、空きません?」
「……言われてみれば」
祐希に言われて、そこで初めて空腹を実感した。
お腹に手を当てたところで、まるでタイミングを計ったようにグウと鳴った。
それを聞いた祐希がニヤッと笑う。
商品の整理のほかに余計な心の動向まで加わったせいか、中枢神経が胃に行き渡らなかったようだ。
「なにか食べて帰りますか?」
「え?」
まさかそうくるとは思いもせず、驚きいっぱいに目を見開いて祐希を見た。