プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

◇◇◇

新しい匂いに満ちた店を出て腕時計を見ると、夜の八時を過ぎていた。
初めての長時間残業だ。


「日菜子さんを遅くまで付き合わせてしまいましたね」


そういうセリフを言われると、私はまだ祐希の中で仕事のパートナーとしてのランクが低いと思わざるを得ない。


「仕事だから大丈夫」


そんなことは気にしてほしくないと、“仕事”を強調した。


「お腹、空きません?」

「……言われてみれば」


祐希に言われて、そこで初めて空腹を実感した。
お腹に手を当てたところで、まるでタイミングを計ったようにグウと鳴った。

それを聞いた祐希がニヤッと笑う。
商品の整理のほかに余計な心の動向まで加わったせいか、中枢神経が胃に行き渡らなかったようだ。


「なにか食べて帰りますか?」

「え?」


まさかそうくるとは思いもせず、驚きいっぱいに目を見開いて祐希を見た。

< 95 / 260 >

この作品をシェア

pagetop