#恋·恋
何も言わなかったのは私なんだから。
「…ごめんっ」
涙を流す彩の背中を摩る。
『謝るのはこっちだって。ごめんね、黙ってて…ほら、アイメイク落ちてるよ』
彩はメイクのことなんて気にせず手の甲で涙を拭って顔を上げた。
「…っ、私店長に言ってくる」
『待って』
立ち上がろうとした彩の腕を掴む。
『言わなくていい』
「なんで?店長に伝えて菅原さんを辞めさせないと!」
『いいって。もう私辞めるし』
「でも……」
納得がいかない彩。
『大丈夫だから。ありがとね』
こんなに心配してくれるだけで嬉しいよ。
―――それから数分話をして彩はバイトに戻り、私は家路に帰った。