#恋·恋
『……なんですか?』
右耳のイヤホンを外し、問いかける。
私の返答に男性はスーツの内ポケットから、1枚の紙を出した。
「いきなり呼び止めて申し訳ございません。あの、私こういう者です」
そう言って私にその紙を差し出す。
あぁ、名刺か。
私は道の端に寄り、それを受け取る。
満島 英介(みつしま えいすけ)
“wander”マネージャー
『“wander”…?』
「はい。ご存知ですか?」
『いえ、全く』
即答した私に男性――満島さんは一瞬だけ目を見開いた。
『何かの店の名前ですか?』
私の問いかけに満島さんは頷く。
「はい。この道の奥にあるお店の名前です」
…へぇ。
『私に何か…?』
「あの、うちの店に来ませんか?」
『…“うちの店”とは、俗に言う水商売、ですか』
名刺や雰囲気的に“水商売”だと、そう感じた。
私の言葉に満島さんは頷く。
「お試し入店で、1日だけ働いてみませんか?」
満島さんの勧誘を一度頭に入れる。
普段なら即答で断るけど、生憎今は働いてない。
学生だから、フリーターではないけど。