まさか…結婚サギ?
急接近の冬
先生も走る、と書いて師走。
なぜにこう、12月になると世間もすべてが忙しくなるのかなぁ…と由梨は溜め息をつく。
これまで週末は会っていた貴哉も、仕事が本当に忙しいようで出張やら接待やらで、電話ですら話せない日が続いていた。メールは苦手だと聞いていたけど、貴哉からのメールはいつも一言。『ごめん、今日は電話できなくて』
とか、『お疲れ様、今日は遅くなったからまたにするよ』
そんな中でも夏菜子に頼まれていた合コンは、土曜日の夕方にセッティングされて店の手配からすべて貴哉sideにお任せであった。
そして、いよいよ合コンの日。
カフェで時間を潰していた夏菜子たちは、いつもの仕事モードとはうってかわり、髪はゆるく巻いてあるし、化粧も気合いが入ってるとわかる。
(そっか…こうしてみると、デートかなってすぐに分かるものなんだ…)
服装だってなんだか違う。
「どうしたの?花村さん」
夏菜子が覗きこんでくる。
「皆さんきれいだなと思って」
由梨が言うと
「やだなぁ、彼氏もちは余裕があって」
「っあ!そんなつもりじゃ」
「わかってるって」
くすくすと夏奈子も結愛も笑っている。
「なんか弄りがいがあるんだよねぇ、花村ちゃんは」
結愛が言う。
「弄りがいって…」
「どこからどうみても、Mっぽい」
と森 菜摘が言う。菜摘は働き者で、夜勤のバイトと空いている時に、ソノダクリニックで働くというハードスケジュールをやってのけている。
きびきびとしていて、とても頼りになるのだ。
なぜそんなに頑張るのかと聞いたら、若いうちにお金を貯めたいのだとか…。
夜勤は確かにお金が良いのだ。
「Mじゃありませんよ」
「ほら、そういうところ」
どういうところなのかと、さっぱり分からない。
今日は貴哉たちも土曜日なのに仕事をしているらしくて、約束の5時まで由梨たちは買い物をしたりうろうろしてからカフェに来ていた。
「私、マンションを買おうかと思ってるんだよねぇ~」
と言ったのは夏菜子である。
「えぇっ?」
車じゃなくて家ですか…。
「住んでもいいし、貸したら家賃になるし」
夏菜子はさっき手にしたマンション情報紙をみている。
「私も働くけど、お金にも働いてもらわなきゃ」
ねっと笑う夏菜子は凄いなーと思う。そんなに年も変わらないのにものすごくしっかりしている。
「一回失敗してる女は強いね」
菜摘がニヤリと笑って夏菜子を見た。
「そうよ、だから花村さんの彼氏もしっかりこの目で確かめてあげるからね!」
「頼もしいです」
由梨は笑った。
(水川さんにも詐欺だと言われたら、どうしよう…)
そう思っている時点で、すでにそうでないといいと思ってるのだが…。
5時になって、由梨のスマホがブルッと震えて貴哉の名前が表示される。
「もしもし」
『由梨?待たせてごめんね、いまどこ?』
「カフェでお茶をしてました」
『じゃあ、迎えに行くからもう少し待ってて』
「あ、はい待ってますね」
電話をきると、夏菜子たちがニヤニヤと笑っている。
「迎えに来てくれるそうです」
「あ、じゃあ、私も友達と連絡とらなきゃ」
夏菜子がスマホを持って、電話をかけている。
「里奈?いま私たちカフェで待ち合わせなんだけど、近くまで来てる?…うん、うん。じゃあきてね、待ってる」
もう一人は夏菜子の友人であるらしい。
まもなく、夏菜子の友人の篠田 里奈がやって来て貴哉を待つ。
扉が開いて由梨は
「あ、来ました」
由梨は手を上げて貴哉に合図をする。
「え、花村さん…あのひと?」
「そうなんです…」
「花村さん、やるわね」
夏菜子がニヤリと笑っている。
「由梨、お待たせ」
微笑む貴哉に由梨はいえ、大丈夫ですと答える。
「はじめまして、紺野です」
貴哉はかるく会釈をする。
「じゃあ、このまま移動してもいいでしょうか?」
「もちろん!」
貴哉をみて、女性たちの声が弾んでいる。
「今日の男性たちは紺野さんの会社の人達ですかぁ?」
結愛がすこし高めの声で話しかける。
「そうです、同じ部署の先輩と後輩と、あと何人かですね」
「紺野さんと同じくらいの格好いい人きますか?」
「さぁ、見た目は俺より落ちますけど、性格は俺より良いと思いますよ?」
と貴哉が言っている。
「へ?」
と結愛が戸惑っている。
(さりげなく自分はイケメンだと言ってるよね?…)
由梨は貴哉の笑みを浮かべている顔をそっと見上げた。
貴哉の案内で、お洒落なイタリアンの店に入る。
間接照明で、雰囲気があって合コンにはぴったりのお店である。
長テーブルに4人の男性が座っている。そのうちの二人は由梨も以前にあったことのある、三好 慎一と、下島 悠太である。
「あの席ですよ」
と貴哉は夏菜子たちに言うと、
「じゃあ、由梨はここで」
「え?」
確かに8人がけで由梨と貴哉の席はない。
「駄目だよ?由梨は合コンなんて」
くすっと笑われて
「はーい、じゃあね花村さんも楽しんできて」
と結愛がいい、
「じゃあね」
と夏菜子と菜摘も手を振って席に座りにいく。
貴哉に手を握られて由梨はその店を後にする。
「せっかくひさしぶりに会えたのに、二人きりが嫌?」
「そ、そんな事…」
「冗談だよ」
くすくすと貴哉が笑いながら由梨の手を引いていく。
どうやら駅に向かっているようで
「どこに行くんですか?」
「うん、由梨の降りる駅の近くでご飯にしようかと思って。その方が一緒にいれるだろ?」
「貴哉さん」
遠くに住んでいる由梨に対する気遣いが嬉しくて、由梨はジンとしてしまう。
「でも、貴哉さんの帰りが大変ですよ?」
「俺は男だし、由梨が遅くなるより全く問題ない」
いつも乗る電車なのに、貴哉と一緒に乗るというのがとても新鮮だ。
一緒に乗りながら、話していると姉の事を話していなかったと思い出す。
「あ、あの…貴哉さん」
「ん?」
「あの、私の姉がですね」
「うん、お姉さん?」
「2月に結婚式をするのですけど…」
「へえ?それはおめでとう」
「それで…貴哉さんも、出席しないかと…言ってまして…」
由梨は貴哉の反応をドキドキして待った。
「…それは…由梨の、家族と同じ扱い、という事で良いのかな?」
「は、はい。そうです…」
貴哉の顔に笑みがある
「喜んで、出席するよ」
「え…本当に…いいんですか?」
「もちろん、嬉しいよ」
(…一瞬…ぞくっとしたけど…風邪でも引いたかな…)
電車は規則正しい音をさせて、走っていく。
なぜにこう、12月になると世間もすべてが忙しくなるのかなぁ…と由梨は溜め息をつく。
これまで週末は会っていた貴哉も、仕事が本当に忙しいようで出張やら接待やらで、電話ですら話せない日が続いていた。メールは苦手だと聞いていたけど、貴哉からのメールはいつも一言。『ごめん、今日は電話できなくて』
とか、『お疲れ様、今日は遅くなったからまたにするよ』
そんな中でも夏菜子に頼まれていた合コンは、土曜日の夕方にセッティングされて店の手配からすべて貴哉sideにお任せであった。
そして、いよいよ合コンの日。
カフェで時間を潰していた夏菜子たちは、いつもの仕事モードとはうってかわり、髪はゆるく巻いてあるし、化粧も気合いが入ってるとわかる。
(そっか…こうしてみると、デートかなってすぐに分かるものなんだ…)
服装だってなんだか違う。
「どうしたの?花村さん」
夏菜子が覗きこんでくる。
「皆さんきれいだなと思って」
由梨が言うと
「やだなぁ、彼氏もちは余裕があって」
「っあ!そんなつもりじゃ」
「わかってるって」
くすくすと夏奈子も結愛も笑っている。
「なんか弄りがいがあるんだよねぇ、花村ちゃんは」
結愛が言う。
「弄りがいって…」
「どこからどうみても、Mっぽい」
と森 菜摘が言う。菜摘は働き者で、夜勤のバイトと空いている時に、ソノダクリニックで働くというハードスケジュールをやってのけている。
きびきびとしていて、とても頼りになるのだ。
なぜそんなに頑張るのかと聞いたら、若いうちにお金を貯めたいのだとか…。
夜勤は確かにお金が良いのだ。
「Mじゃありませんよ」
「ほら、そういうところ」
どういうところなのかと、さっぱり分からない。
今日は貴哉たちも土曜日なのに仕事をしているらしくて、約束の5時まで由梨たちは買い物をしたりうろうろしてからカフェに来ていた。
「私、マンションを買おうかと思ってるんだよねぇ~」
と言ったのは夏菜子である。
「えぇっ?」
車じゃなくて家ですか…。
「住んでもいいし、貸したら家賃になるし」
夏菜子はさっき手にしたマンション情報紙をみている。
「私も働くけど、お金にも働いてもらわなきゃ」
ねっと笑う夏菜子は凄いなーと思う。そんなに年も変わらないのにものすごくしっかりしている。
「一回失敗してる女は強いね」
菜摘がニヤリと笑って夏菜子を見た。
「そうよ、だから花村さんの彼氏もしっかりこの目で確かめてあげるからね!」
「頼もしいです」
由梨は笑った。
(水川さんにも詐欺だと言われたら、どうしよう…)
そう思っている時点で、すでにそうでないといいと思ってるのだが…。
5時になって、由梨のスマホがブルッと震えて貴哉の名前が表示される。
「もしもし」
『由梨?待たせてごめんね、いまどこ?』
「カフェでお茶をしてました」
『じゃあ、迎えに行くからもう少し待ってて』
「あ、はい待ってますね」
電話をきると、夏菜子たちがニヤニヤと笑っている。
「迎えに来てくれるそうです」
「あ、じゃあ、私も友達と連絡とらなきゃ」
夏菜子がスマホを持って、電話をかけている。
「里奈?いま私たちカフェで待ち合わせなんだけど、近くまで来てる?…うん、うん。じゃあきてね、待ってる」
もう一人は夏菜子の友人であるらしい。
まもなく、夏菜子の友人の篠田 里奈がやって来て貴哉を待つ。
扉が開いて由梨は
「あ、来ました」
由梨は手を上げて貴哉に合図をする。
「え、花村さん…あのひと?」
「そうなんです…」
「花村さん、やるわね」
夏菜子がニヤリと笑っている。
「由梨、お待たせ」
微笑む貴哉に由梨はいえ、大丈夫ですと答える。
「はじめまして、紺野です」
貴哉はかるく会釈をする。
「じゃあ、このまま移動してもいいでしょうか?」
「もちろん!」
貴哉をみて、女性たちの声が弾んでいる。
「今日の男性たちは紺野さんの会社の人達ですかぁ?」
結愛がすこし高めの声で話しかける。
「そうです、同じ部署の先輩と後輩と、あと何人かですね」
「紺野さんと同じくらいの格好いい人きますか?」
「さぁ、見た目は俺より落ちますけど、性格は俺より良いと思いますよ?」
と貴哉が言っている。
「へ?」
と結愛が戸惑っている。
(さりげなく自分はイケメンだと言ってるよね?…)
由梨は貴哉の笑みを浮かべている顔をそっと見上げた。
貴哉の案内で、お洒落なイタリアンの店に入る。
間接照明で、雰囲気があって合コンにはぴったりのお店である。
長テーブルに4人の男性が座っている。そのうちの二人は由梨も以前にあったことのある、三好 慎一と、下島 悠太である。
「あの席ですよ」
と貴哉は夏菜子たちに言うと、
「じゃあ、由梨はここで」
「え?」
確かに8人がけで由梨と貴哉の席はない。
「駄目だよ?由梨は合コンなんて」
くすっと笑われて
「はーい、じゃあね花村さんも楽しんできて」
と結愛がいい、
「じゃあね」
と夏菜子と菜摘も手を振って席に座りにいく。
貴哉に手を握られて由梨はその店を後にする。
「せっかくひさしぶりに会えたのに、二人きりが嫌?」
「そ、そんな事…」
「冗談だよ」
くすくすと貴哉が笑いながら由梨の手を引いていく。
どうやら駅に向かっているようで
「どこに行くんですか?」
「うん、由梨の降りる駅の近くでご飯にしようかと思って。その方が一緒にいれるだろ?」
「貴哉さん」
遠くに住んでいる由梨に対する気遣いが嬉しくて、由梨はジンとしてしまう。
「でも、貴哉さんの帰りが大変ですよ?」
「俺は男だし、由梨が遅くなるより全く問題ない」
いつも乗る電車なのに、貴哉と一緒に乗るというのがとても新鮮だ。
一緒に乗りながら、話していると姉の事を話していなかったと思い出す。
「あ、あの…貴哉さん」
「ん?」
「あの、私の姉がですね」
「うん、お姉さん?」
「2月に結婚式をするのですけど…」
「へえ?それはおめでとう」
「それで…貴哉さんも、出席しないかと…言ってまして…」
由梨は貴哉の反応をドキドキして待った。
「…それは…由梨の、家族と同じ扱い、という事で良いのかな?」
「は、はい。そうです…」
貴哉の顔に笑みがある
「喜んで、出席するよ」
「え…本当に…いいんですか?」
「もちろん、嬉しいよ」
(…一瞬…ぞくっとしたけど…風邪でも引いたかな…)
電車は規則正しい音をさせて、走っていく。