まさか…結婚サギ?
薄闇の中、ふと目が覚めて由梨は隣の布団で寝ている貴哉に気がついて思わず飛び起きそうになる。
「……っ!」
声をあげそうになって、口を押さえる。
まだ朝は早いが、早く身支度をしなければ…。朝からすっぴんを見せたくない。
そろりと足を下ろすと、貴哉の寝ている布団に足を下ろさざるを得ず、なるべく邪魔をしないようにそろりそろりと動く。
朝から入念に手入れをして、それから化粧をする。自分の中で満足のいく仕上がりにメイクとヘアを整えると、キッチンの母に声をかける。
すでに母はキッチンで朝食の下ごしらえをしていて、
「お母さん、おはよう」
「由梨、早いじゃない」
ふふふっと笑う母に由梨は
「…ゆっくり朝寝坊なんて出来ないでしよ…」
「貴哉くんは本当に、良い子ねぇ。もう、結婚しちゃえば?」
「お母さんてば…」
「だって、そんなつもりが全くないならここまで来ないでしょ?」
「そういう話になるほどのお付き合いはしてないわよ?」
「こういうのは時間の長さじゃないの。タイミングよタイミング。亜弥なんて付き合いだしてから何年よ。由梨が15年付き合おうと思ったら、いくつになるのって話でしよ?」
「お姉ちゃんと比べないでよ…」
「比べてないわよ。亜弥は亜弥で、由梨は由梨でしょ。あ、貴哉くんのシャツ、アイロンかけてきたら?ここはいいから」
「はぁい」
由梨は手伝いの手をとめて、脱衣場に干していた貴哉の服を取り入れてアイロンをかける。
由梨の服と違い、サイズが大きくて、大きめのアイロン台いっぱいに広がる。
この服にぴったりの…貴哉の胸と、腕に抱き締められたら…どんな感触がするのかな…。
袖をかける時に思わず自分の腕と比べてしまう。
いつも隙のないスーツ姿の貴哉は、アイロンなんて自分でかけたりしてるのだろうか?それとも、クリーニングなのかな…。
アイロンをかけおわって、由梨はスーツ一式を持って部屋にそぉっと戻ってみる。
布団にまだ横になっている貴哉の額に、さらりと髪がかかっていて、形よい眉と閉じた目を彩っている。
(寝顔も素敵って…すごいよね。髪…柔らかそう…)
思わず確かめたくなる。
わずかに開いた少し薄めの形よい唇を見たとたん、昨夜の事を思い出して思わず頬が熱くなる。
起こさずにまた外に出ようと後退りした所で、貴哉の目がパチリ開いて、由梨を見つめている。
「優しく起こしてくれるの、待ってたのに」
「起きて、たんですか?」
「由梨が入ってきた時にね」
布団に、スウェット姿で半身を起こしているだけなのに、絵になっていて、しかも色っぽい。
腰穿きしているためか、動いたわずかの隙に鍛えられた腹筋が目に入ってきて由梨は思わず目線を逸らした。
「貴哉さん、シャツの洗濯、終わりましたから…置いておきますね」
「ありがとう由梨」
由梨が出ていかないうちに、躊躇いなく着替えをはじめる貴哉に由梨は慌てて部屋の外へでる。
(…男の人の裸なんて…はじめてでもないのに…)
きっと自分の部屋だからだ、と由梨は自分を納得させてキッチンに降りる。
「貴哉くん、起きてた?」
「うん」
「じゃあ、お味噌汁温めるわね」
母はそう言うと、ご飯と味噌汁と玉子焼きと胡瓜の酢の物。焼き鮭を並べだす。
「お父さん呼んできて」
「はぁい」
花村家は、可能な限りまずは何でも男性からである。
「じろうくんは、寝てるかしら?」
「日曜日はゆっくりなんじゃないの?」
由梨はそう言うと、居間の父に声をかける。
「お父さん、ご飯出来ました」
「ん」
父は新聞を置くと、ダイニングテーブルに座る。
母が朝食を並べて、由梨は貴哉の様子を見にいく。
「貴哉さん?」
「入って大丈夫だよ」
外から声をかけた由梨に、そう返事がある。
「朝食、出来てますよ」
「ありがとう」
カチャッとドアを開けると、きっちりとたたまれた布団がある。
「下まで運ぶよ」
「いえいえ、貴哉さんにそんな事をしてもらったらお母さんに叱られます」
「力仕事は任せてくれていいんだよ?」
有無を言わさず、貴哉は布団を抱えあげる。
「すみません…」
簡単に運ぶ貴哉の後ろから降りる。
「あらあら、貴哉くんにそんな事をさせて」
やっぱり言われた…。
「いいんですよ。俺の方がこういうのは向いてますから」
にこやかに応じる貴哉に、母は機嫌よく
「貴哉くんは本当に頼もしいわ。由梨にはもったいないくらいだわ」
母はすっかり貴哉を気に入っているらしく、笑顔である。
「じゃあそこにお願いね」
居間の横の和室を開ける。
「ここに置きます」
「貴哉くん、じゃあお父さんとだけどどうぞ」
「ではありがたく頂戴します」
貴哉は笑顔で父の前に座る。
「由梨たち、今日はどこかに出掛けるの?」
「まだ、決めてないけど…」
「せっかくなんだからどこか行ってきたら?」
「でも、貴哉さん、スーツなんだけど…」
それに仕事の鞄もある。
「それもそうねぇ」
「近くに買い物出来るところはありますか?」
「あるわよ、貴哉くんの好みにあうかはわからないけど」
「車を使うといい」
父が乗り気でいい、
「ついでに今日も泊まって、由梨と一緒に仕事に行けばいいんじゃないか?」
(…なんですって?)
「いいんでしょうか?」
にこやかに貴哉は応じている。
(ち、ちょっとまってぇー)
***
そんなやり取りの後、由梨は父の車を運転して貴哉と貴哉の服を買いに近くのショッピングセンターに来ていた。
「由梨の家はなかなか便利な所にあるんだな」
「仕事にいくには遠いんですけど…」
「なぜ、遠くまで行ってるの?」
「うーん…近所だと…。知り合いに会うと気まづくないですか?」
「気になるんだ?」
「少し…」
自分がというよりも、相手が気になるのじゃないかと思うのだ。
「それに…あそこはなかなか時給がいいんです。あと、勤務条件もいいんです」
ソノダクリニックはその土地柄のせいか相場よりも高めである。スタッフも充実してるので、休みも取りやすくて条件がよいのだ。
家の周りだと、看護師の人数は少なくて休みづらい。
「じゃあ、俺も頑張ってイブは仕事を早く終わらせるから、由梨も夜は空けられる?」
「希望、出してみます…」
クリスマスイブのデートなんて…憧れがあるだけにドキドキする。
「……っ!」
声をあげそうになって、口を押さえる。
まだ朝は早いが、早く身支度をしなければ…。朝からすっぴんを見せたくない。
そろりと足を下ろすと、貴哉の寝ている布団に足を下ろさざるを得ず、なるべく邪魔をしないようにそろりそろりと動く。
朝から入念に手入れをして、それから化粧をする。自分の中で満足のいく仕上がりにメイクとヘアを整えると、キッチンの母に声をかける。
すでに母はキッチンで朝食の下ごしらえをしていて、
「お母さん、おはよう」
「由梨、早いじゃない」
ふふふっと笑う母に由梨は
「…ゆっくり朝寝坊なんて出来ないでしよ…」
「貴哉くんは本当に、良い子ねぇ。もう、結婚しちゃえば?」
「お母さんてば…」
「だって、そんなつもりが全くないならここまで来ないでしょ?」
「そういう話になるほどのお付き合いはしてないわよ?」
「こういうのは時間の長さじゃないの。タイミングよタイミング。亜弥なんて付き合いだしてから何年よ。由梨が15年付き合おうと思ったら、いくつになるのって話でしよ?」
「お姉ちゃんと比べないでよ…」
「比べてないわよ。亜弥は亜弥で、由梨は由梨でしょ。あ、貴哉くんのシャツ、アイロンかけてきたら?ここはいいから」
「はぁい」
由梨は手伝いの手をとめて、脱衣場に干していた貴哉の服を取り入れてアイロンをかける。
由梨の服と違い、サイズが大きくて、大きめのアイロン台いっぱいに広がる。
この服にぴったりの…貴哉の胸と、腕に抱き締められたら…どんな感触がするのかな…。
袖をかける時に思わず自分の腕と比べてしまう。
いつも隙のないスーツ姿の貴哉は、アイロンなんて自分でかけたりしてるのだろうか?それとも、クリーニングなのかな…。
アイロンをかけおわって、由梨はスーツ一式を持って部屋にそぉっと戻ってみる。
布団にまだ横になっている貴哉の額に、さらりと髪がかかっていて、形よい眉と閉じた目を彩っている。
(寝顔も素敵って…すごいよね。髪…柔らかそう…)
思わず確かめたくなる。
わずかに開いた少し薄めの形よい唇を見たとたん、昨夜の事を思い出して思わず頬が熱くなる。
起こさずにまた外に出ようと後退りした所で、貴哉の目がパチリ開いて、由梨を見つめている。
「優しく起こしてくれるの、待ってたのに」
「起きて、たんですか?」
「由梨が入ってきた時にね」
布団に、スウェット姿で半身を起こしているだけなのに、絵になっていて、しかも色っぽい。
腰穿きしているためか、動いたわずかの隙に鍛えられた腹筋が目に入ってきて由梨は思わず目線を逸らした。
「貴哉さん、シャツの洗濯、終わりましたから…置いておきますね」
「ありがとう由梨」
由梨が出ていかないうちに、躊躇いなく着替えをはじめる貴哉に由梨は慌てて部屋の外へでる。
(…男の人の裸なんて…はじめてでもないのに…)
きっと自分の部屋だからだ、と由梨は自分を納得させてキッチンに降りる。
「貴哉くん、起きてた?」
「うん」
「じゃあ、お味噌汁温めるわね」
母はそう言うと、ご飯と味噌汁と玉子焼きと胡瓜の酢の物。焼き鮭を並べだす。
「お父さん呼んできて」
「はぁい」
花村家は、可能な限りまずは何でも男性からである。
「じろうくんは、寝てるかしら?」
「日曜日はゆっくりなんじゃないの?」
由梨はそう言うと、居間の父に声をかける。
「お父さん、ご飯出来ました」
「ん」
父は新聞を置くと、ダイニングテーブルに座る。
母が朝食を並べて、由梨は貴哉の様子を見にいく。
「貴哉さん?」
「入って大丈夫だよ」
外から声をかけた由梨に、そう返事がある。
「朝食、出来てますよ」
「ありがとう」
カチャッとドアを開けると、きっちりとたたまれた布団がある。
「下まで運ぶよ」
「いえいえ、貴哉さんにそんな事をしてもらったらお母さんに叱られます」
「力仕事は任せてくれていいんだよ?」
有無を言わさず、貴哉は布団を抱えあげる。
「すみません…」
簡単に運ぶ貴哉の後ろから降りる。
「あらあら、貴哉くんにそんな事をさせて」
やっぱり言われた…。
「いいんですよ。俺の方がこういうのは向いてますから」
にこやかに応じる貴哉に、母は機嫌よく
「貴哉くんは本当に頼もしいわ。由梨にはもったいないくらいだわ」
母はすっかり貴哉を気に入っているらしく、笑顔である。
「じゃあそこにお願いね」
居間の横の和室を開ける。
「ここに置きます」
「貴哉くん、じゃあお父さんとだけどどうぞ」
「ではありがたく頂戴します」
貴哉は笑顔で父の前に座る。
「由梨たち、今日はどこかに出掛けるの?」
「まだ、決めてないけど…」
「せっかくなんだからどこか行ってきたら?」
「でも、貴哉さん、スーツなんだけど…」
それに仕事の鞄もある。
「それもそうねぇ」
「近くに買い物出来るところはありますか?」
「あるわよ、貴哉くんの好みにあうかはわからないけど」
「車を使うといい」
父が乗り気でいい、
「ついでに今日も泊まって、由梨と一緒に仕事に行けばいいんじゃないか?」
(…なんですって?)
「いいんでしょうか?」
にこやかに貴哉は応じている。
(ち、ちょっとまってぇー)
***
そんなやり取りの後、由梨は父の車を運転して貴哉と貴哉の服を買いに近くのショッピングセンターに来ていた。
「由梨の家はなかなか便利な所にあるんだな」
「仕事にいくには遠いんですけど…」
「なぜ、遠くまで行ってるの?」
「うーん…近所だと…。知り合いに会うと気まづくないですか?」
「気になるんだ?」
「少し…」
自分がというよりも、相手が気になるのじゃないかと思うのだ。
「それに…あそこはなかなか時給がいいんです。あと、勤務条件もいいんです」
ソノダクリニックはその土地柄のせいか相場よりも高めである。スタッフも充実してるので、休みも取りやすくて条件がよいのだ。
家の周りだと、看護師の人数は少なくて休みづらい。
「じゃあ、俺も頑張ってイブは仕事を早く終わらせるから、由梨も夜は空けられる?」
「希望、出してみます…」
クリスマスイブのデートなんて…憧れがあるだけにドキドキする。