まさか…結婚サギ?
その翌日は、貴哉の検温に来た彼女は昨日の貴哉の拒否を気にしていないのか、笑顔で測っていく。

その日もまだ入浴出来ない貴哉だが、看護師と二人でやって来てまた看護師がてきぱきと拭いていき、またカートを片付ける。


そして、数日後に貴哉は院内歩行とシャワー浴を許可されてホッとした。その頃には彼女は違う部屋の担当になったのか、貴哉の部屋には別の学生が検温に来るようになった。
病棟にはナースステーションのすぐそばに患者の面会等で使うスペースがあり、本や新聞が置いてある。面会人と入院患者が話したりしている。貴哉も、病室に飽きていたので少しここでお茶を飲むことにした。

患者同士の話につい聞き耳をたててしまう。
「学生さんたちは丁寧だし、何より初々しいな」
と患者同士が話していて、つい聞き入ってしまう。

「あの子、可愛い。花村さん」
「あー、あのいつもにこにこしてるし」
「あ、ちょうど戻ってきた」

見ると、ピンク制服を着た学生たちはナースステーションに入っていく。

「あ、あれだよ。今日の実習終わりの時間」

ナースステーションでは学生が四人並んで立ち、看護師と話をしている。
その学生たちの表情は緊張しているように見える。
どうやら、発表を終えるとお辞儀をして学生たちは揃ってナースステーションから出てきた。

「学生さんたちお疲れ様ー」
と患者たちが言うと、
「ありがとうございます。さようなら」
と揃ってお辞儀をしていく。

階段のある方へ歩いていく彼女らを見送ると、
「みんな可愛いけど、由梨ちゃんがやっぱり天使だな」
「由梨ちゃん?」
「花村さん、由梨ちゃんって言うんだってさ」
「へぇ~名前まで可愛いなぁ」

そんなおじさんたちの話を聞きながら、貴哉は面会スペースを後にした。

花村 由梨。
その名前が、貴哉にくっきりと刻まれる。
貴哉が入院して、一週間。そろそろ退院が近づいたかと、思うと、由梨はその病棟に来なくなった。

面会スペースに行くと、
「由梨ちゃんは違う病棟になったんだなぁ、残念。今度の学生さんたちはどうかな?」
とまたおじさんたちは噂をしていた。

貴哉の病棟にはまた由梨と同じ学校の違う学生たちが、実習にきていた。

この、看護師を目指して頑張っていのを見て、貴哉はconnoグループの会社以外で就職をすることを決めた。
これまで何となく、親の言うままに進路を決めてきた。
しかし、由梨を見て、何がしたいのか何が出来るのか自分だけ力かどこまで通じるのか試したくなったのだ。
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