まさか…結婚サギ?
***
由梨の思考は、自分でもままならない。

戸惑いと、そして恐れ。
目の前に貴哉がいなくなると、嫌な事ばかり想像してしまう。
セレブな暮らしなんて、由梨にとっては遠い世界。
いくら気にするなと言われても、それは難しいこと。

そして、何か上手く言いくるめられている?貴哉にも、貴哉の家族にもなにか良いようにされているんじゃない?本当は何か想像のつかないような理由で、由梨と付き合うのを歓迎するようなフリをしてるんじゃないかな?

ううん。そうじゃない…彼は由梨を大切にしてる。
だけど…時々、怖くなる。
そして、何より全てを支配されそうな気がしてしまう。
…秘密にされていることがあるようにも感じてしまう。

考え事をしながら由梨はもくもくと、針を動かした。
ドレスとタキシードを着たペアのくまのぬいぐるみが完成していく。
こんな風に、最初からペアで完成していればいいのに。そうしたら、何の不安もなく貴哉の傍らに立っていられるのに…。

幸せそうに口角のあがってる白いくま。しかし由梨の憂鬱は晴れない。

糸屑を綺麗にして、ラッピングするとそれは完成である。

由梨はため息をついて、ベッドに横たわる。
すると…微かに貴哉の香りがして、このベッドで過ごした夜を思い出させる。
(…胸が苦しい…)

こんなことって、本当に起こるんだ…。
信じきることが出来ないのは、自分がダメな女だからだろうか。

なぜ、由梨は堂々と貴哉を好きで隣にいるのが当たり前だとそういう顔を出来ないんだろう。

鬱々としていると、部屋までどんよりとしている気がするから不思議だ。
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