まさか…結婚サギ?
***

「あ…」
短い叫び声がして、由梨はうっすらと目を開けた。
貴哉が寝てしまったので、由梨もその隣に横になりいつの間にか眠っていたのだ

「やべ…俺、寝てたな…」
しまった、と言うように前髪をかきあげている。

「最悪だな、俺」
「疲れてたんじゃないですか?」
「せっかく…由梨と過ごしてたのに」

体温で温まったベッドの中で、ぎゅっと抱き締められる。

「由梨は…いつも俺に文句とか、言わないな…」
「そうでしたっけ?」

「うん」
「貴哉さんがいつも、私を大事にしてくれてるから、文句を言えないんじゃないですか?」
由梨は小さく笑った。

「俺はやっぱり由梨の笑顔が好きだな…」

軽くキスをされて、由梨はうつらとしながら微笑んでキスを返した。
「そんな事をしたら、止まらなくなるけど?」
由梨はそっと目を開けた。

「ん…止めないで…」

由梨は貴哉の背に腕を回した。
「…ここ薄くなったな」

そこは、貴哉のつけた所有印のあった胸の谷間である。
同じ場所をまたきつく吸われて由梨は、吐息を漏らした。

「…んっ…」
貴哉のキスが、由梨の唇からはじまり、あちこちに散っていく。
次第に由梨の息は荒くなり、時おり喘ぎが漏れ出す。

「あっ…!」
由梨が身を震わせた、その時である。

部屋の加部に何かぶつかる音と、隣で誰かが『うるせぇ』と叫ぶ声がして、由梨は口を塞ぎ、貴哉は動きを止めた。

「わ、私…そんなにうるさかったですか…!」
恥ずかしくなり、聞くと

「いや…もっと出させたいくらいだけどな…」
貴哉はそう言うと、由梨と共にその壁側にわざわざ向かい、由梨の体にキスをしていく。

「や、ダメ。聞こえちゃう」
「だったら我慢して…」

「…やだ…こんなかっこ」
「こんな、ってどんな…?」

(やだ…完全に黒い貴哉さんになってる…)

わざわざ壁際で由梨は貴哉にさんざん翻弄される。

「…言ってみたら?」
くすっと笑みを交えた、艶っぽい声だ。けして大きくはない声なのに、由梨の耳を刺激してゾクゾクさせる。

「ぃ、や…」
「静かにしないと、聞こえてしまうよ隣に」

その声と共に激しくされて由梨は、我慢が出来なくなっていく。

「エロい声が聞かれるよ?…」
「やぁ…意地悪、しないで…」

わざとしているに違いない貴哉に由梨はひたすら翻弄されていく。
そこでくったりとするまで貴哉に攻められた由梨は、ようやくベッドに戻されて、またそこでも喘がされる。

その時には隣の事など由梨の脳裏には残っていなかった。
< 52 / 82 >

この作品をシェア

pagetop