まさか…結婚サギ?
そして、スマホには時々渉からの電話がかかって来ていた。本当に、時々…。

(まさか…渉じゃないよね)

こちらがいやがらせならともかく、向こうがする理由がわからない。
由梨は昔の同僚にRENというアプリでをとってみた。

『ひさしぶり』
『ゆりちゃん?ひさしぶり!元気?』
『みんな元気にしてるかなと思って』
『元気!元気!ターミネーターも相変わらず怖いけどね。あ、白石先生が…あ、覚えてる?研修医の。由梨の事聞かれたから、元気にまた働いてるってだけ言っておいたよ。そんなに親しかったっけ?』
ちょうどどうやって聞こうかと思っていた渉の名前が出る。二人が過去に付き合っていた事は和花くらいしか知らない。和花にすら自然に終わったかのように言っていた。
『ターミネーターも元気なんだ~白石先生とは親しくないよ。何でだろ』
『由梨の事、好きだったんじゃない?』
『好きってそんな事ないでしょ。白石先生って既婚でしょ』
『どこから、その話聞いたの?先生はシングルだよ』
『…え?そうなの?私、誰かと間違えたかな』
『そうじゃない?してないって言ってたよ?あ、もう仕事で行かなきゃ』
『仕事、頑張って。忙しい時にごめんね』
『ううん。また、ご飯でもいこ』

(…渉が結婚、してない?)

一昨年の4月から、渉は研修医として来ていた。
由梨は出来るだけ避けていたから話す事はなくて、そうだ…でも、指輪はしてないね、と看護師たちが噂していたのは聞いた。
でも、つけて無いだけだと思っていた。

(まさか…本当に渉?)

そんな疑いを抱いた…そんな時に…。

渉…。白石渉は、由梨の前に現れたのだった。
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