まさか…結婚サギ?
診察が終わって、由梨はいつものようにワンコールする。
この日貴哉はすぐにかけ直して来なかった。

「じゃあ、帰ろうか」
「うん」

由梨は渉と駅に向かって歩き出す。
どこかに、由梨を盗撮してる人がいる。そうわかっていると、確かに由梨は脇目もふらず歩くしかなかった。
渉が、近くにいることは由梨にとってはいつもよりずっと安心出来た。

「…渉…ありがとう」

ただ、写真を撮られるだけ、それなのに薄気味悪くてとても怖かった。
「うん」

渉は、少しだけ前をゆっくりと歩く。
「こんな風に並んで歩くの、ひさしぶりだよな」
「そうだね」

「由梨の、彼氏ってどんなヤツ?」
「え…」
「聞きたい」

「背が高くて…顔も良くてイケメンで。仕事も出来て…営業成績一位らしいの。それに、優しくて時々少し意地悪、かな」
「ふっ、ノロケ?」
「違うよ」
「週末は。デートすんの?」
「するよ、渉と違ってちゃんと出掛けるの」
「そ、か」
「そうよ」
「由梨も、そんなイヤミとか言えるようになったんだな」

ほとんどを由梨の自宅でのんびりと過ごした渉との過去に少しだけ当て擦ってみた。

渉は、電車に乗るまで由梨を見送り、由梨は笑みを向けて手を振った。

***

お約束というか、なんというか…、翌日のクリニックのポストにはまた見慣れた封筒が入っていて、そこにはやはり由梨と、そして渉が少し距離を空けつつも笑いながら話している写真。

確かに…。夏菜子たちの言うように、貴哉より渉の方が見た目も釣り合いが取れているのかも知れない。と思う。
由梨は155㎝、貴哉はたぶん185㎝前後、渉は、174㎝。親がサラリーマンで、頑張って医学部にいれた渉とは貴哉よりも育った環境は近い。

由梨はため息をついて、その写真をカバンに入れた。

「毎日、よくやるよね?」
夏菜子があきれたように言う。
これをポストに入れるなら、早朝に直接入れている事になる。暇すぎると思う。
「それさぁ、彼氏に言ってないの?」
結愛が言ってくる。
「はい、何となく。私の事に巻き込むのもって思って」

「あの彼ならさ多分知らなかったって知ったら怒ると思うよ、そろそろ相談したら?」

「私もそう思う。それにもしかして、彼の関係かも知れないじゃない?花村さんをストーカーしてるにしては、なんていうかおかしくない?家よりも職場付近でストーカーって」
夏菜子がそう、腕を組んで言った。

「そうですか?」
「これは、私の単なる勘だけどさ…。花村さんの彼なら、あっさり解決しちゃいそうだけど?」
「え?」
「なんか、怖いとこあるから」
「怖い、ですか?」
「なんていうか、妙な迫力?」

「あ、それはそうかも知れないです」
「でしょ」
「時々怖いです」
そう由梨が言うと、夏菜子と結愛が笑う。


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