まさか…結婚サギ?
人目がなければ『きゃー』と叫んでしまいそうである。
わずかにふれあっただけなのに、その唇の感触が後から後から思い起こされて脳内を侵食されていく。
(あ、電話…)
ワンコールして、切るとすぐに貴哉から電話がかかってくる。
「由梨、駅に着いた?」
(い、いつの間にか呼び捨てになってるし)
「はい着きました」
『電話しながらも周りに気をつけて由梨は女の子なんだから』
「はい、でも大丈夫ですよ?」
電話ごしだから、艶のある低い声が耳を刺激して由梨はドキドキしてしまう。ほんのわずかに触れた唇は、もっと本格的にキスをしたらどれ程気持ちいいのか…とつい想像してしまう。
『明日も車で送っていくから』
こんなに優しくて格好よくて…本当に全部夢なんじゃないかな…。
「遠いからそんな毎回だと大変ですよ」
『由梨といるのに大変なんてないよ』
「貴哉さん、過保護ですよ」
『由梨は俺の彼女だからこれくらい普通だよ」
「そうですか?」
人が変わればつきあい方も変わる。
きっとこれは貴哉の普通なのだと思うと、嫌でもないので納得する。
「あ…そうだ…今日、私がデートだと知った他のスタッフさんたちが早くに帰らせてくれたんです。それで、合コンしてくれたらそれでいいよって…。貴哉さん、そういうの大丈夫ですか?」
『合コン?』
貴哉が少し考えている。
『大丈夫だよ、由梨の職場の人だったらそれくらい何でもない』
「すみませんお願いします」
『何人くらいかまた知らせて』
「あ、はい」
『そろそろ家かな?切った方がいいね』
なぜか貴哉はこういう気配りがとてもいい。
もうすぐ家が見えているそんなところでそう言ってくるのだ。
家だとやはり親と姉の目があって話しづらい。そんな些細な所が貴哉への気持ちをより高まらせていった。
「はい、家の前です。じゃあまた明日…」
『おやすみ由梨』
電話を切って、家に入ると
「おかえりなさい」
と母が声をかけてくる。
「彼とご飯だったんでしょ?」
と言ってくる。
「そう」
「この時間に由梨を帰してくれるなんて、随分紳士的なのね」
10時半は確かに遅いけれど、終電ギリギリでもなく社会人が仕事の後にデートをして帰宅するにはまずまず早いといって良いかもしれない。
「そうかも」
「先週も、家の夕飯に間に合わせてくれるし今度の彼はいい人そうね。もう少しお付き合いが続いたらお母さんにも会わせてね」
「うん。まぁ彼が良いって言ったらね」
母はすっかり貴哉の事を信頼している、かもしれない。
「あのね。お母さんは別に順序が逆になっても構わないわよ?由梨ももう大人なんだし、思うタイミングでお付き合いすればいいわ。いまのその彼はなかなか信頼できそうだし」
(いえ…詐欺かも、なんて思ってますけど…)
「お姉ちゃんと比べると頼りないけどね、由梨は」
「はーい。わかってますよぅ」
どうしても、妹だとこういうところで甘えが出てしまう。
「明日も…仕事終わってから出掛けるから…」
「お夕飯は要らなかったら早めに連絡してね」
「はぁい」
お風呂に入って、部屋に行って明日の服を用意する。
ピンクのアンサンブルニットと茶色のチェックのスカートとノーマルなコーディネイトにしてしまう。
あと、仕事では外すけれどイヤリング。
由梨が警戒してるのを分かってるからか、貴哉の距離の詰めかたはとても心地よい。
これがわざとだとすればかなりの策士かな、なんて思ってしまう。
(合コン…てことは、彼の友達とか会社の人と会えるってことだから…詐欺とかじゃないと思っていいよね?)
由梨はスチームをあてながらスキンケアをする。
本当はエステに行きたいが、それまではこれで我慢である。
「由梨~…あれ、お手入れ中?」
亜弥が部屋に入ってきて
「うん」
「そういうとこ、尊敬しちゃうわ」
「そうかな?」
由梨は元々ニキビが出来やすいので、スキンケアは神経質にしている方かも知れない。
何もしなくて綺麗にはなれないと思ってる。
元から綺麗な人はいいな、と憧れる。
「あのさ、例の彼。結婚式に来ないかな?」
「お姉ちゃん、何言ってるの」
「だって、そうしたら彼が本気かどうか、わかるでしょ?」
「まだ知り合って一ヶ月もたってないよ?」
「でもさぁ…結婚を前提にとか向こうが言ってきたんでしょ?尻尾捕まえるなら早い方が、傷も浅くてすむしまた次に行けるでしょ?」
「…でも」
「とりあえず聞いてみて、まだ席は増やせるから」
亜弥がにこにこと言ってくる。
「うん、聞いてみる」
確かに…亜弥のいうことも一理ある…。
親や親類と顔を会わすとなると、騙しているならこれないだろう…。それに、もし本当に来たとすれば…証人が増える。由梨にとってデメリットは少なく思えた…。
「あと、由梨は振袖着るよね?」
「うん。着付けもお願いするね」
亜弥はにこにこと輝くような顔で笑う。
とても幸せそうで、少し羨ましくなる。
順調に学校を卒業して、会社に入ってOLをして、高校の時からの恋人と結婚する姉はすべてが理想的である。
新鮮さはないけどねと亜弥は言うけれど、そんなに長い期間お互い想い合えるなんて本当に凄いことだと思う。
由梨は高校を衛生看護科という道を選び、そんな16やそこらの年齢で医療の現場で実習をしつつの学校生活を選んだ。
今となっては普通の高校や、大学の生活がしてみたかったと思ってしまう。
そして自信のないまま資格を得て働きだしたけれど、交代制の勤務や、夜勤といった仕事、みんなこなしているのに由梨は苦痛で仕方なかった。
向いてない。という思いはつのり、いわゆるお礼奉公という奨学金がチャラになる期間である3年を勤めあげて辞めてしまった。
「私も会ってみたいし、その彼にね」
ふふふっと亜弥は笑っている。
「由梨は私の可愛い妹なんだから、もてあそんだりするのは絶対許さないんだから」
と頼もしいことを言っている。
「お姉ちゃんはもう、お母さんになるんだから、赤ちゃんの事考えていればいいよ、私はもう大人なんだし」
「大人だから色々と悩むんでしょ~」
亜弥は、結婚相手の家に住むので親と同居である。たぶんそれなりに悩みがあるに違いない。
「そっか、そうよね…」
2年前と今では悩みも違う。亜弥の年ならまた悩みも違うだろう。
「話だけしてみるね」
「うん。なんていうか楽しみ~」
亜弥はそのまま手を振ると由梨の部屋を出ていった。
わずかにふれあっただけなのに、その唇の感触が後から後から思い起こされて脳内を侵食されていく。
(あ、電話…)
ワンコールして、切るとすぐに貴哉から電話がかかってくる。
「由梨、駅に着いた?」
(い、いつの間にか呼び捨てになってるし)
「はい着きました」
『電話しながらも周りに気をつけて由梨は女の子なんだから』
「はい、でも大丈夫ですよ?」
電話ごしだから、艶のある低い声が耳を刺激して由梨はドキドキしてしまう。ほんのわずかに触れた唇は、もっと本格的にキスをしたらどれ程気持ちいいのか…とつい想像してしまう。
『明日も車で送っていくから』
こんなに優しくて格好よくて…本当に全部夢なんじゃないかな…。
「遠いからそんな毎回だと大変ですよ」
『由梨といるのに大変なんてないよ』
「貴哉さん、過保護ですよ」
『由梨は俺の彼女だからこれくらい普通だよ」
「そうですか?」
人が変わればつきあい方も変わる。
きっとこれは貴哉の普通なのだと思うと、嫌でもないので納得する。
「あ…そうだ…今日、私がデートだと知った他のスタッフさんたちが早くに帰らせてくれたんです。それで、合コンしてくれたらそれでいいよって…。貴哉さん、そういうの大丈夫ですか?」
『合コン?』
貴哉が少し考えている。
『大丈夫だよ、由梨の職場の人だったらそれくらい何でもない』
「すみませんお願いします」
『何人くらいかまた知らせて』
「あ、はい」
『そろそろ家かな?切った方がいいね』
なぜか貴哉はこういう気配りがとてもいい。
もうすぐ家が見えているそんなところでそう言ってくるのだ。
家だとやはり親と姉の目があって話しづらい。そんな些細な所が貴哉への気持ちをより高まらせていった。
「はい、家の前です。じゃあまた明日…」
『おやすみ由梨』
電話を切って、家に入ると
「おかえりなさい」
と母が声をかけてくる。
「彼とご飯だったんでしょ?」
と言ってくる。
「そう」
「この時間に由梨を帰してくれるなんて、随分紳士的なのね」
10時半は確かに遅いけれど、終電ギリギリでもなく社会人が仕事の後にデートをして帰宅するにはまずまず早いといって良いかもしれない。
「そうかも」
「先週も、家の夕飯に間に合わせてくれるし今度の彼はいい人そうね。もう少しお付き合いが続いたらお母さんにも会わせてね」
「うん。まぁ彼が良いって言ったらね」
母はすっかり貴哉の事を信頼している、かもしれない。
「あのね。お母さんは別に順序が逆になっても構わないわよ?由梨ももう大人なんだし、思うタイミングでお付き合いすればいいわ。いまのその彼はなかなか信頼できそうだし」
(いえ…詐欺かも、なんて思ってますけど…)
「お姉ちゃんと比べると頼りないけどね、由梨は」
「はーい。わかってますよぅ」
どうしても、妹だとこういうところで甘えが出てしまう。
「明日も…仕事終わってから出掛けるから…」
「お夕飯は要らなかったら早めに連絡してね」
「はぁい」
お風呂に入って、部屋に行って明日の服を用意する。
ピンクのアンサンブルニットと茶色のチェックのスカートとノーマルなコーディネイトにしてしまう。
あと、仕事では外すけれどイヤリング。
由梨が警戒してるのを分かってるからか、貴哉の距離の詰めかたはとても心地よい。
これがわざとだとすればかなりの策士かな、なんて思ってしまう。
(合コン…てことは、彼の友達とか会社の人と会えるってことだから…詐欺とかじゃないと思っていいよね?)
由梨はスチームをあてながらスキンケアをする。
本当はエステに行きたいが、それまではこれで我慢である。
「由梨~…あれ、お手入れ中?」
亜弥が部屋に入ってきて
「うん」
「そういうとこ、尊敬しちゃうわ」
「そうかな?」
由梨は元々ニキビが出来やすいので、スキンケアは神経質にしている方かも知れない。
何もしなくて綺麗にはなれないと思ってる。
元から綺麗な人はいいな、と憧れる。
「あのさ、例の彼。結婚式に来ないかな?」
「お姉ちゃん、何言ってるの」
「だって、そうしたら彼が本気かどうか、わかるでしょ?」
「まだ知り合って一ヶ月もたってないよ?」
「でもさぁ…結婚を前提にとか向こうが言ってきたんでしょ?尻尾捕まえるなら早い方が、傷も浅くてすむしまた次に行けるでしょ?」
「…でも」
「とりあえず聞いてみて、まだ席は増やせるから」
亜弥がにこにこと言ってくる。
「うん、聞いてみる」
確かに…亜弥のいうことも一理ある…。
親や親類と顔を会わすとなると、騙しているならこれないだろう…。それに、もし本当に来たとすれば…証人が増える。由梨にとってデメリットは少なく思えた…。
「あと、由梨は振袖着るよね?」
「うん。着付けもお願いするね」
亜弥はにこにこと輝くような顔で笑う。
とても幸せそうで、少し羨ましくなる。
順調に学校を卒業して、会社に入ってOLをして、高校の時からの恋人と結婚する姉はすべてが理想的である。
新鮮さはないけどねと亜弥は言うけれど、そんなに長い期間お互い想い合えるなんて本当に凄いことだと思う。
由梨は高校を衛生看護科という道を選び、そんな16やそこらの年齢で医療の現場で実習をしつつの学校生活を選んだ。
今となっては普通の高校や、大学の生活がしてみたかったと思ってしまう。
そして自信のないまま資格を得て働きだしたけれど、交代制の勤務や、夜勤といった仕事、みんなこなしているのに由梨は苦痛で仕方なかった。
向いてない。という思いはつのり、いわゆるお礼奉公という奨学金がチャラになる期間である3年を勤めあげて辞めてしまった。
「私も会ってみたいし、その彼にね」
ふふふっと亜弥は笑っている。
「由梨は私の可愛い妹なんだから、もてあそんだりするのは絶対許さないんだから」
と頼もしいことを言っている。
「お姉ちゃんはもう、お母さんになるんだから、赤ちゃんの事考えていればいいよ、私はもう大人なんだし」
「大人だから色々と悩むんでしょ~」
亜弥は、結婚相手の家に住むので親と同居である。たぶんそれなりに悩みがあるに違いない。
「そっか、そうよね…」
2年前と今では悩みも違う。亜弥の年ならまた悩みも違うだろう。
「話だけしてみるね」
「うん。なんていうか楽しみ~」
亜弥はそのまま手を振ると由梨の部屋を出ていった。