嘘つき天使へ、愛をこめて



「お邪魔しまーす!」


狭い6畳の部屋に、唯織の明るい声が響く。


放課後、学校からそのままあたしの借りているアパートへと向かったはいい。


片付けるから少し待っていて、というあたしの声も聞かずに、ぞろぞろと侵入してくる皆にあたしは今更ながら後悔していた。


家具は備え付けのクローゼットと古びた机。

一枚の曇りガラスの戸に仕切られた向こうには、申し訳程度のキッチンと小さな冷蔵庫。

右手には、一応トイレとシャワー室。


ご覧の通り必要最低限の物しかないけれど、あたしがひとり生活するのには、不自由しない。


なによりアパート自体がとても古いから、家賃が破格なんだよね。


経済的余裕なんて欠片もないあたしにとっては、何よりもそれが大事。


「片付けるって片付いてんじゃん。っていうか、なんだろ、味気ない?」


が、こちらの事情など知る由もなく、案の定唯織がそんなことを言い出した。


そりゃそうだ。

片付けるどころか、片付ける物がない。


このメンバーたちが住んでいるあのお屋敷みたいな家に比べたら、天と地の差だろう。


「まるで生活感のない部屋だな。お前、本当にここへ帰ってるのか?」


続けて櫂も部屋を見回しながら、怪訝そうに眉を寄せてあたしを見た。


……一応、帰ってはいるんだけど。

ここ以外に帰る場所なんてないし。
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