嘘つき天使へ、愛をこめて
◇
「お邪魔しまーす!」
狭い6畳の部屋に、唯織の明るい声が響く。
放課後、学校からそのままあたしの借りているアパートへと向かったはいい。
片付けるから少し待っていて、というあたしの声も聞かずに、ぞろぞろと侵入してくる皆にあたしは今更ながら後悔していた。
家具は備え付けのクローゼットと古びた机。
一枚の曇りガラスの戸に仕切られた向こうには、申し訳程度のキッチンと小さな冷蔵庫。
右手には、一応トイレとシャワー室。
ご覧の通り必要最低限の物しかないけれど、あたしがひとり生活するのには、不自由しない。
なによりアパート自体がとても古いから、家賃が破格なんだよね。
経済的余裕なんて欠片もないあたしにとっては、何よりもそれが大事。
「片付けるって片付いてんじゃん。っていうか、なんだろ、味気ない?」
が、こちらの事情など知る由もなく、案の定唯織がそんなことを言い出した。
そりゃそうだ。
片付けるどころか、片付ける物がない。
このメンバーたちが住んでいるあのお屋敷みたいな家に比べたら、天と地の差だろう。
「まるで生活感のない部屋だな。お前、本当にここへ帰ってるのか?」
続けて櫂も部屋を見回しながら、怪訝そうに眉を寄せてあたしを見た。
……一応、帰ってはいるんだけど。
ここ以外に帰る場所なんてないし。