嘘つき天使へ、愛をこめて

「部屋の感想はいいから、とりあえず座ってて。いい?キッチンには絶対入ってこないでよ。あとクローゼットも開けないこと」


有無を言わさぬ圧をかけながらそう言い放つと、皆は顔を見合わせて、大人しく腰を下ろした。


ひとり、雅だけが立ったまま壁に寄りかかっている。


「雅も座ってよ。一応掃除はしてるし、そんな汚くないよ。多分」


「別に俺はそんなの気にしない」


じゃあなんで立ってるんだ、とは言わずにあたしはひとりキッチンへ向かう。


アルミ台にガスコンロひとつ。

まだ一度も使っていないそれには目もくれず、あたしはサッとミニ冷蔵庫の上に置いておいた薬の袋を回収した。


キッチンに入られたくなかったのは、これを見られたくなかったから。


あたしの身体のことを知ったら、きっと追求してくるだろう。

どうせすぐいなくなるのにそんなのは御免だ。


薬の袋をアルミ台の下の引き出しに突っ込んで、一応隠しておく。


冷蔵庫に入っているのは水のみだ。

薬を飲むために買って置いたものだけれど、さすがになにも出さないというのも気が引ける。


だからと言って、水を出すのも……。


「サリちゃん、なにか手伝うか?」


曇りガラス戸の向こうから、気遣わしげな柊真の声が聞こえてきて、あたしはビクッと肩を揺らす。


「い、いや、あのごめん。なんもないから水でいい?」


「俺らのことは気にしなくていい。無理言って押しかけたのはこっちだからな」


まあたしかに。
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