嘘つき天使へ、愛をこめて
あきらめたい
◇
アパートは月末までの契約を取ってしまっているから、とりあえずその後の解約手続きだけを行って、あたしは例の屋敷へと引越した。
もともと荷物は少ない。
その中でさらに絞って、持って行ったのは替えの下着と服が数着、そして薬だけ。
薬だけはバレたくなかったから、荷物とは別に学校用の鞄へ入れておいた。
だから引越しといっても、そんなたいそうなものではなく、思い立ったが吉日とばかりにその日のうちに全てが終わった。
そして、あたしがまず知ったのは屋敷では役割分担があるらしいということ。
言わずとも柊真は食事係。
唯織は洗濯係、玲汰は掃除係で、櫂は族の情報収集から手が話せないとかで役割免除。
雅はまあ一応総長という役柄免除となっているが、ほぼ寝てばかりの玲汰が掃除などまともに出来るはずもなく、その代わりをしているらしい。
かくいうあたしは柊真の助手として、洗い物などの雑務を担当することになった。
最初は手が荒れるから反対だと煩かったメンバーたちも、日が経つにつれて何も言わなくなった。
お世話になる分、何もしないというわけにはいかない。
けれど、そんなものは置いておいてなにより困ったのは。
差し出される料理が、とてもじゃないけど食べきれないということ。
もちろん柊真の作る料理はどこかのベテランシェフが作ったんじゃないかと思うほど美味しいし、贅沢なものだけれど、問題はそこではなくて。
……あたしは、今、あまり物を食べられる体じゃないのだ。