嘘つき天使へ、愛をこめて
「……言えるかよ。んなこと」
まぁなかなか言い難い話ではある。
実際親に捨てられて絶望しかない子どもに対して、自分はかつて暴走族の総長だっただなんて言ったら、信頼を失いかねない。
あたしだって、大翔はずっとただの良い人だと思っていた。
喧嘩は馬鹿みたいに強かったし、気性は粗めだったけれど。
「あたしと大翔の関係はそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない」
雅はなにを考えているのか、あたしを見つめたまま口を開こうとしない。
それから小さく溜息をつくと、立ち上がり大翔へ向き直った。
「……少し、話があります」
雅の言葉に、大翔が顔を上げる。
そしてしばし沈黙したあと、僅かに頷いて来いよ、とでも言いたげに部屋を出た。
「サリ」
「え、え?」
「こいつらの手当て、頼める?」
雅の声があまりに優しくて、あたしは反射的に頷いてしまう。
それを確認してから、雅は大翔の後を追うように部屋を出ていった。
話って、一体何を話すんだろう。
不安になりはしたものの、あたしは言われた通りに棚から救急箱を取り出して、みんなの元へと戻る。