嘘つき天使へ、愛をこめて
「大丈夫だよ。ちゃんと、分かってる」
君があたしに家族というものを見せてくれようとしたことも、君があたしの家族になってくれようとしていることも。
玲汰だけじゃない。
ここにいる皆も、悪魔と言われていたあの雅だってそうだ。
お互いに少しずつだけれど心を開きつつある。
毎日、一歩ずつ近づいている。
そして恐らく、雅はあたしに対してここにいるみんなとは少し違った感情を持っているということも、気づいてる。
自惚れで、なければの話だけど。
なによりあたし自身が、あの雅に惹かれてしまっているということも、もう目を避けてはいられない。
気づきたくなかった。
本当はもっと、ここにいたかった。
……ううん、生きていたかった。
「柊真の料理、すごく美味しいし」
「え?」
柊真が戸惑ったような声をあげた。
「唯織はいつだって明るくて、櫂は常に落ち着いてるから頼れるし」
唯織と櫂が顔を見合わせる。
「玲汰は、寝てばっかりだけど最初からあたしのことを真正面から見てくれたし」
あたしがここに来て出逢ったのは、裏世界に住んでいるような怖い人達ではなく、そんな普通の男子高校生たちで。
「雅は……」
端正すぎる顔立ちの裏になにを隠しているのか謎が多いミステリアスな奴だけれど、本当はすごく優しくて。
けれど、こんな温かい場所の中でも、雅はいつもひとりだけ孤独であるような気がして。
「……とても、不思議な人で」
「なんだそれは」
櫂がキレよく突っ込んでくる。
「最初から雅だけはよく分からない」
今でも分からない。
分からないのに、あたしはどうしてか雅に惹かれてしまっている。