嘘つき天使へ、愛をこめて
「天使が……サリが、ありがとうって」
ありがとう?
その言葉に他のメンバーたちがはっとしたような顔をする。
大翔さんは怖ばった顔をあげた。
「そうだ。倒れる前のサリっぺなんか変だったよね。ありがとうとか、嘘ついてごめんとか」
「俺たちに対しても、色々言っていたな」
唯織の言葉に、櫂が頷く。
「……他に、何か言っていたか!?」
大翔さんが立ち上がり、近くにいた唯織の胸ぐらを掴む。
なんで喧嘩腰なんだと唯織は面食らいながら、眉根を寄せた。
「もう充分だ。夢みたいな時間だったって、確か……」
そこで大翔さんは唯織を投げ捨て、飛び出すように部屋を出ていった。
咄嗟に柊真と櫂に受け止められながら、唯織は呆然と「な、なに」と零した。
「……どういう意味だよ」
訳が分からないまま、俺は大翔さんを追って部屋を飛び出し、階段を駆け上がる。
我に返ったように、後ろからあいつらもついてきた。
大翔さんはサリが使っている部屋の扉を勢いよく開けて、電気を付けた。
そして、立ち尽くす。
「……いねえ」
その言葉を聞くがいなか、俺は大翔さんを押しのけるようにして部屋へ飛び入った。
……そこは、もぬけの殻だった。
さっきまで寝ていたはずのサリの姿はどこにもない。
元から誰もいなかったかのように、布団は綺麗に整えられている。
唯一、壁にかかったサリの生々しい制服だけがぽつんと残されていた。