嘘つき天使へ、愛をこめて
家族という言葉は苦手だ。
あたしにはそれがどんなものなのかわからない。
あの人が父親なんて思いたくないから。
それでもただ一人、大翔は……家族のように大事な人だ。
彼が本当の兄であったらどれだけうれしいか、もう何度そう考えたか、わからない。
あたしはフルフルと首を振る。
だめだ、大翔のことを考えるのはよそう。
頭の中を空っぽにして、前を向く。
そんなあたしのことを雅はじっと見ていたけれど、気づかないふりをした。
ヤンキーでいっぱいの校内を案内されながらも、あたしは身を隠す場所を探すことを忘れない。
雅と擦れ違うたびに、ガラの悪そうな彼らがあたしを見てぎょっと目を見開いた後、慌てて頭を下げるのがなんだか面白かった。
こんな男だらけの場所で1ヶ月女ひとりでやっていくのだ。
自分の身は自分で守る。
そのためにも、抜かりなく常に気を張っていなければ。
あたしは深く息を吸いこんで、余計なことを極力考えないようにしながら、頭の中に細かくメモを重ねていった。